自分自身の「バラード第一番」~2

「バラード第一番」を弾くツィマーマンさんの映像を見て、
「どんな感情でどんな体勢で弾いているのか」までを研究したとは、本当に驚きでした。

その演奏は端正で、抑制が効いているように思います。
もっと奔放に、激情がなだれうつように、緩急を揺らすピアニストもいますね。
ツィマーマンさんを選んだのはバトルさんなのだろうと思いますけれど、
ピアニストの演奏に向き合った上で、自分のスケートがそれを超えるまで、
のぼりつめようとしていたのでしょうか。

「今は、一つひとつの音を踏みしめているような感覚です」

そして、プログラム構成を組み替えたことについて。
サルコウのあとで、
「速い音のところで以前はスピンが2つだったけれど、
そこをトゥループにしたことによって、また違ったダイナミックさが出て、
その速い音でゆっくりとした動きがだせるようになりました」

…この言葉が聞きたかった、と思いました。
サルコウからトゥループに向かう間、曲は次第に速度を増し強くなっていくのに、
リンクを周回しそれから斜めに横切って、ステップを踏み、ジャンプに入ります。
これを、「速い音でゆっくりとした動きを出す」と捉えて、
複雑なトランジションとしてだけではなく、
音楽を大きな連なりとして、きこえない音が流れている事までを、
ダイナミックに表現しようとしたのかもしれない。

その結果、4T+3Tは、音楽のフレーズの山をふたつとも、
そのままなぞって、音を目で見せてくれるようなジャンプとなり、
キャメルスピンに入るのに、ピアノの強打をそのトウで鳴らし、
ドーナツの円形を描いて回転しながら、
繊細なピアニシモが流れ出るのが目に見えるようになったのかもしれない。


そんな事を想像しました。



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自分自身の「バラード第一番」

「Ice Jewels」vol.2に、2シーズン目の「バラード第一番」を、
ジェフリー・バトルさんと一緒にブラッシュアップした頃のことが話されています。

「自分には何ができるか、何が一番曲と合うのかを考えていた」

イーグル+4S+イーグルは、バトルさんからも絶対無理だと言われた。
でも、イーグルからのアクセルは曲に合っていたので、
ジャンプの難易度を上げながらも、その印象を大切にしたかった。

「ジェフなりの曲の解釈に僕が飲み込まれているところもあり、
昨季は僕がジェフのレベルに追い付いていなかった」
「1年間、曲を聞き込んで、少しはジェフに追いつけるようになったかな」
「アレンジに自分の気持ちや感情が乗せられるようになった」

それは、ジャンプが美しく跳べ、途切れなく破綻がないからこそ完成する作品。
ジャンプも曲の表現となり、10点満点の評価もそこから導き出されてくる。
萬斎さんからも学んだように、その場の雰囲気、その時の感情に合わせて振付を変え、
型の上に何かをプラスし、自分らしさを発見し表現していく。

自分が音を奏でているような演技だけではなくて、
自分はピアニストではないのだから、それとは別な次元で、音と一体となる。


バトルさんからも離れて、演奏者からも離れて、
自分自身が直接、音そのものになる。

そんな事を考えていたのでしょうか。




…続きます

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ゴルディオスの結び目

昔、「これを解いた者がアジアの王になる」という伝説の、「ゴルディオスの結び目」という硬い結び目があった。
結び目を解こうと何人もの人たちが挑んだが、それは決して解けることがなかった。
数百年の後、この地を遠征中のマケドニアの王・アレクサンドロス大王が訪れた。
彼もその結び目に挑んだが、それはあまりに硬く結ばれており、なかなか解くことができなかった。

すると大王は剣を持ち出して、その結び目を一刀両断に断ち切ってしまった。
折しも天空には雷鳴がとどろき、驚いた人々を前に、大王の従者は、
「たったいま我が大王がかの結び目を解いた。雷鳴はゼウス神の祝福の証である」と宣言した。
後にアレクサンドロス大王は遠征先で次々と勝利し、予言通りにアジアの王となった。

ゴルディアス

ひとつの問題を解き明かすのには、たったひとつの答えがあるのではない。
まったく別次元からの発想に、難題解決への可能性が潜んでいる。
複雑に絡み合った結び目は、今までの試みを思い切って捨て去り、斬新な手段で断ち切らねばならない。

誰も思いつかない、見えているのに見ようとしなかった解決法。
解決できない、変えようがない、という思い込みこそ、人を自由から遠ざけている。

羽生選手は、SPのプログラムを組み替え、4回転を2回入れ、ルッツを外した。
SPに4T+3Tを入れたら、FSにも4T+3Tを入れた。
そしてFSでは、見事にルッツを成功させた。

今まで繋がれていた軛を断ち切り、失敗の記憶を白紙にもどし、成功の記憶に書き換える。
ひとつがうまく行けばすべての道が開けて行く、誰も考え付かない方法を考え、実行したのだ。

固く結ばれた紐を断ち切ることには、大変な勇気が必要だ。
それを一度切ってしまえば、二度と後戻りできなくなってしまうからだ。
断ち切った、それから先がさらに重要であり、次に待っているあらたな課題を乗り越えて行かねばならない。


ゴルディオスの結び目を断ち切った時、アレクサンドロス大王は、
「運命とは、伝説によってもたらされるものではなく、自らの剣によって切り拓くものである」と語ったという。








wikiその他を参考にさせていただきました。

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NHK杯「バラード第1番」 ~ラストシーン

ここからは、ジェフリー・バトルが去年、彼のために心を込めて用意してくれた作品。
何度見ても胸に迫ってくるステップの躍動、そして天に向かって高く伸びていく美しいスピン。
過去と現在、未来とが重なり合い、新しい姿に結実してゆく。

SP 2015 NHK アップライトスピン

怖ろしいほどの気魄でこちらをにらんだラストシーン。
それはバラードの詩情を語り終えた姿とはとても思えなかった。
彼はこんな顔をして長い間、ショパンを求め格闘し続けていたのだろうか。

SP 2015 NHK フィニッシュ

あんなに素晴らしかったトゥループが今年、なぜだかうまくいかなかった。
迷路にまよいこんでしまったかのようなそれに、彼はさらに三回転を付け加えた。
失速したら元に戻すのではなく、はるかそれ以上にして完成させるとは。

以前、「バラード第一番は誰が弾いているのか」と、たくさんのピアニストの演奏を聞いた。
ホロヴィッツが、アルゲリッチが、もっと年若いピアニストたちが、それぞれのショパンを奏でていた。
どのピアニストも全霊をかけてピアノに向き合い、自分だけのショパンを捧げていた。

もしかしたら去年のショパンは、ジェフリー・バトルのショパンだったのかもしれない。
それを置き換える時、彼の心は痛んだろうか。
その痛みは、血のにじむほどだったという苦しい練習の、一部でもあっただろうか。

探し、組み立て、創り上げた、二つの4回転と超絶なトリプルアクセルが鮮やかに彩る、生まれ変わったバラード。
音楽は留まることなくあふれ、ブレードは休むことなく滑走し、氷上を美しく舞い、踊り続ける。
華麗さと強靭さを備えた、アスリートとして、競技として輝くための、自分自身のショパンを。


成し遂げた事の大きな喜びと、成し遂げられなかった事のわずかな苦さ。
それらすべてを引き受けるのがどこまでも野心的な真の王者。
そして新しい彼は、さらに洗練をめざしていってくれるだろう。

生きていてよかった。
生きているうちに、今日の彼に間に合った。
そして明日の彼にも、きっとまた会えるだろう。






画像はこちらの画像からお借りしました。ありがとうございます。

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NHK杯「バラード第1番」 …3

スピンから出て、姿勢の美しさ、膝のやわらかさに惹きつけられる。
イナバウアー、流れるステップにアクセントをつけて、トリプルアクセルから、両手を挙げてしなやかに降りてくる。

SP 2015 NHK 3A

胸を張り身体を伸ばした着地の美しさ、そのあいだも曲の主題を奏で続ける。
いつどんな時も、彼を支え続けてくれたトリプルアクセル。
もう、この演技が完璧であろうことは、誰の目にも疑いようがない。

SP 2015 NHK 3A 1

けれども彼はそれからまた新たに闘い始めた。
まっすぐな軸を保ったまま高速に回転するシットスピン、その絶妙なバランス。

SP 2015 NHK シットスピン

小さく体を折りたたみながらも、大きく羽ばたくように拡げられる彼の両腕。
ピアニストが鍵盤を叩くように、激しく強く叫んでいるような彼の指先。

SP 2015 NHK シットスピン 1

演技の冒頭から位置を変更した。
同時に、多彩に、感情が沸き起こるようなスピンへと高め、開花させた。

SP 2015 NHK ステップ

そして、その高鳴りのまま、怒涛のステップに入っていく。






続きます。

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