成長への糧

羽生「荒い」エッジワークでレベルの取りこぼしも

評価すべき羽生の勇気 左足痛も安易に回転数落とさず

ショートの時点では、ステップでのエッジワークの荒さを指摘しながらも、フリーでの最高の演技を期待してくれた岡崎真さんでした。
そんな岡崎さんが、最後には彼を励ましてくださいました。

「1つはミスのあと気持ちを途切らせることなく、最後まで丁寧に滑ろうとしたこと。特に連続ステップは世界最高得点のときよりも質の高いものだったと思う」

ステップはレベル4が取れているし、加点もついて5.50を獲得しています。
なかなか評価の定まらなかった「SEIMEI」のステップが、ようやく、この終着点を迎えました。
「和」の静かな、変化に乏しい動作を、フィギュアスケートのルールのもとで数値的にカウントしてもらうのは、本当に難しい試みでした。

スコアとはまた別に、ボストンの観客が何を望み熱狂を求めて会場に来ているのか、それもまた考えさせられました。
開幕前の番組で、アメリカのフィギュアは不屈の精神とエンターティメント、と言っていましたね。
シナトラに乗ったフェルナンデス選手の演技は、まさにそれを体現していました。


「もう1つは左足に不安があるにもかかわらず、安易に回転数を落として3回転ジャンプを跳ぶのではなく、4回転のトーループからサルコーへの変更を選択したこと。その勇気は素晴らしい」

当初、4Tを4Sに変更するのは、4Sの確実性が上がっていることもあり、難易度も質も上げることを目指すため、と言われていました。
実は怪我のためにトウループに不安があったのだとは、あとで知ることになる、何とも辛い理由です。
3回転に変更するという発想はおそらく彼にはないでしょう。
でも、もし怪我が重いのなら、そういう選択があってもいいと私は思います。
少なくとも4Tの回数を減らしてくれた事はよかったと思うし、試合期間中にも怪我を悪化させてしまうかもしれないリスクを抱えていたわけなので、そうならなくて本当によかった。


「無人の野を行くかのようだった今季、最後の試合で逆転負けしたという事実は残念ではあるが、それすらも成長の糧にするのが羽生というスケーターの真骨頂ではないか」

シーズンの最後に、彼は「喪失感」「悲しい」と言いました。
「悔しい」ではもう超えられない壁が、彼の前にはあるのでしょう。
ボストンでは有終の美に輝くことはできなかった「SEIMEI」だけれど、試行錯誤を繰り返しながら高みを目指した日々は忘れません。
悲しみを知って、さらに強くなった羽生選手に、どうか来シーズンには会えますように。
悲しいと言葉にして言えることも、明日への一歩となりますように。


スポンサーサイト



テーマ : フィギュアスケート
ジャンル : スポーツ

上海の夜・ボストンの朝

キャノンインタビューが更新され、あらためて、去年のワールドを思い出します。

上海の夜と、

キャノン

ボストンの朝。

キャノン2016 1

ボストンが本当に朝だったのかはわからないけれど、
できればこれは朝の彼だと思いたい。
エキシビション、そしてバンケットから一夜明けた朝だといい。
大きな舞台を務め上げたあとの、彼の顔。
窓から射す陽が白く頬に映っていて、光と影を集めている。
過去の余韻と、未来への扉とがその朝にあって、
別れ道にいる彼は、またじっとこちらを見ている。
その瞳には新しい意志が宿っている。

ワールド2016 Ex

この一年に全力をつくしきった彼らが、最後に見せてくれた笑顔。
再びの、挑戦の旅へと彼らを送り出そう。

さよなら、そしてありがとう。





画像はお借りしています。ありがとうございます。

テーマ : フィギュアスケート
ジャンル : スポーツ

クリケットクラブの日々

クリケットクラブでは、毎日の練習の最後を全員のスケーティング練習で締めくくる。
フィギュアスケートの基礎となるスケーティングの技術は、
いつの時代も変わることのない、スケートの真髄だ。
カナダに渡り、クリケットクラブに入門してからの羽生選手の練習は、
望みだったサルコウジャンプの習得の前に、まず、
このスケーティングを見直すことから始まった。

偉大なコーチも、ジュニアから上がったばかりの若い選手も、
みんな一緒になってストローキングを練習する。
数時間も続ければ疲れ果ててしまう、難度の高い厳しい練習の後で、
もう一度、基礎に立ちかえることを求められる。
鏡を見れば、一足での伸び方、エッジの倒し方、姿勢のよしあしがひと目でわかる。
正しいエッジに乗り、体重を移動させ、
身体のラインを美しく保ちながら、氷と対話するようにリンクを渡る。

クリケットクラブの四角いリンクにはフェンスがない。
まるでアイスショーのリンクのように、床とリンクを隔てる壁がない。
別世界であるはずの氷面と、日常に連なるごく普通の床とが、
あたり前のように続いている。
そこは解放され、何事もないかのようにスケーターを受け入れる。
かつて、凍った湖でスケートを楽しんでいた時代を思い出させてもくれる。
本当に不思議なリンクだと思う。

そんなリンクの懐の深さにひたって、リンクメイトと一緒に、
ゆっくりとスケーティングを練習する。
前を行く人、横、後ろ、相手の動きを感じ、間を測り、呼吸を聞く。
自分のエッジ、相手のエッジ、その音をあわせながら大きく動く。
競い合うライバルも、追い上げてくる後輩も、
同じスケートに魅せられた仲間なのだと感じる。
一日の終わりにリンクに感謝し、たゆむことない基礎の繰り返しこそが、
大きな成果をもたらすことを知り、明日の成長を願う。
スケートをする喜び、その原点にいつも帰っていく。
それはまるで、日本の武道の修行のようだ。

昨シーズンの羽生選手は、日本でひとり練習している時期が長かった。
そういうときは、早朝や深夜のリンクを貸し切っていて、
存分にジャンプの練習ができるのだろう。
でも、後半にも4回転トゥループを跳ぶ事で左足の甲を痛めてしまった。
もちろん、日本に長くいることの事情はいろいろあるだろう。
けれども、この、クリケットクラブでの練習のように、
最高のコーチやスタッフの指導を受け、仲間との一体感に励まされながら、
笑顔で滑ることがもっとできたのなら、と思う。

来シーズンはさらに難度をあげていくと宣言していた。
ハイリスク・ハイリターンな挑戦が続くのであれば、シーズンは長く、
細やかな調整がますます必要になるだろう。
怪我をしないためのケア、基礎を大切にする事、心のあり方。
そして、一番大切な試合に向けての、長距離走者のような忍耐強いピーキング。

たとえ日本にいることになっても、どうか、
クリケットクラブの日々を思い出してほしいと、心から願っている。




テーマ : フィギュアスケート
ジャンル : スポーツ

最後の「天と地のレクイエム」

もう一度彼は天と地の間に立つ。
人として、そこに証しをたてるために。
だから彼はゆっくりと舞い始める。

その身体にどれほどの痛みがある事か、今は問うまい。
ある時は激高し、ある時は慈しんだこの物語を、
長い旅の終わりに、天に捧げようとする誠実をただ受け止めたい。

大きく、静かに何度でも弧を描く。
その旋回の軌跡は、深く、緩やかで、祈りに満ちている。
肩から指の先までは斜めに傾いで、まるですすり泣いているようだ。

そして形のよいその頭を、惜しげもなくぐるぐると回転させる。
倒れそうな心の角度と同じように、破綻の直前まで自分をねじる。
あんなにも深く膝を折り、あんなにも高く空中に舞いあがる。

砂漠に隠された井戸、遠い星に咲く花を探している。
静かな哀しみに包まれながら、リンクは青く透きとおっている。
届かない手にすべては委ねられ、すべては赦されている。

ここにはもう何も残っていない。
さようならレクイエム。
その最高のすがた。
今日初めて、本当のあなたを知った。


2016年世界選手権銀メダル、おめでとうございました。




テーマ : フィギュアスケート
ジャンル : スポーツ

最後の「SEIMEI」

冒頭の息の音から、音楽と一体になることができない。
あの瞬間は、彼の自身の息吹き、生命の証し。
時空を超えて晴明となるための儀式だったのに。

とらえ損ねた物語を探し、彼は旋回し動き始める。
極めてきたはずの技が、少しずつ、足もとをすり抜けてゆく。
彼は音を追いかける。
空気は淀み、重くねばりを持って絡みつく。
晴らそうとする暗雲が、またその周囲から渦を巻く。

暗闇をさまよう弟と、光を導く姉の物語。
白い袖を大きく振って彼女は静かに祈り舞う。
その間にも、音楽はずれ、彼の指先からこぼれ落ちる。
鬼にも、晴明にも、なりきれないままに。

幻想の中に究めようとした新しい技は、
見えない壁に阻まれ崩れてゆく。
天と地が歪み、小さく折られた彼の背中で、
その回転は止まりそうになる。

美しい瞬間を見つけたい。
探してみる。
いくらでも見つかる。
強く拍を刻むその力は、
眩しいほどに五芒星をきらめかせる。
やわらかくしなやかなその深さは、
虹を渡るように博雅の龍笛を響かせる。
けれどもいくつかの綻びの前では、
彼の美しさはいっそのこと悲しい。

転倒の痛みは身を切るようだった。
頂上を極めた先には断崖が待っていた。
晴明は素知らぬ風情で空のどこかへ飛び去ってゆき、
彼はひとり残され、あきらめたように微笑んで、現し世に戻ってくる。

完璧という高みへの困難な挑戦。
和の精神を世界へ問いかけた濃密な日々。
栄光に輝いた時の余韻を見送って、
最後の「SEIMEI」はあっけなく終わった。
呆然とする間もなく夜は明け、夢から醒め、
何事もなかったかのように次の一日が訪れる。
その日常のなかに天地人はある。



テーマ : フィギュアスケート
ジャンル : スポーツ

プロフィール

yuzurufight

Author:yuzurufight
読んでくださってありがとうございました

あたらしい記事
あたらしいコメント
カテゴリ
月別アーカイブ
タグリスト

羽生結弦 世界選手権 SEIMEI バラード1番 オペラ座の怪人 NHK杯 ファンタジーオンアイス ファイナル 宇野昌磨 天と地のレクイエム オーサーコーチ 国別対抗戦 パトリックチャン 全日本 宮本賢二 野村萬斎 高橋大輔 フェルナンデス ソチオリンピック 浅田真央 織田信成 FaOI 町田樹 オータムクラシック 小塚崇彦 KENJIの部屋 全日本選手権 プルシェンコ 無良崇人 能登直 宮原知子 中国杯 スケートカナダ 陰陽師 デニス・テン 佐野稔 パトリック・チャン ナム・ニューエン 本田武史 村上大介 FaOI 24時間テレビ チーム・ブライアン ハビエルフェルナンデス ファントム アイスジュエルズ 鈴木明子 Number 四大陸選手権 パリの散歩道 ボーヤン・ジン クリケットクラブ あさイチ ビリーヴ DOI オリンピック 平昌オリンピック 都築章一郎 ガーナ 山本草太 阿部奈々美 ボーヤンジン クリアファイル 安倍晴明 フィギュアスケートTV スポーツ酒場語り亭 安藤美姫 盛岡エキシビション ジェフリー・バトル 野口美恵 手術 NHK杯 ショパン ジョニー・ウィアー 本郷理華 八木沼純子 シェイ=リーン・ボーン 荒川静香 花になれ ロッテガーナ 衣装 NHK バスクリン ブライアン・オーサー シェネル 中日賞 ロッテ DOI 樋口新葉 村上佳菜子 スケートアメリカ デニステン 磯田道史 パパダキス フィギペディア アドラー ロミオとジュリエット 4回転 ロミオ+ジュリエット 四大陸 松岡修造 世阿弥 短歌 ロシア杯 村主章枝 トリプルアクセル フランス杯 仙台 世界ジュニア 花は咲く アオーレ長岡 トロント 俳句 闘争本能 ANA COC カナダ杯 ハビエル・フェルナンデス TCC 羽生結弦語録 リスフラン靭帯 ヤグディン 悲愴 樋口豊 カナダ選手権 欧州選手権 紅白 情熱大陸 スケーティング スターズオンアイス はたちの献血 ザヤックルール ナムニューエン アディアン アイスリンク仙台 岡崎真 ジャパンオープン きき湯 トゥクタミシェワ グレイシー・ゴールド ランビエール キシリトールホワイト 井上怜奈 G2 ジュベール イーグル 劇団四季 宇都宮直子 殿、利息でござる! 本田真凛 ジョニーウィアー フィギュアスケートLife 華原朋美 コーラスライン ティモシー・ゲーブル 川畑要 ラトデニ 4Lo 白岩優奈 ツィメルマン フロー ライフ ウィルソン フィギュアスケートライフ グランプリファイナル 献血キャンペーン 本田真凜 福間洸太朗 家庭画報 ジェフリーバトル 報道ステーション ブライアンオーサー Believe 献血 青嶋正 茂木健一郎 AERA 西野友毬 朝日スポーツ大賞 無私の日本人 題名のない音楽会 バレンタイン 長洲未来 清塚信也 シェイリーン 太田由希奈 ニューイヤーオンアイス ファイナルタイムトラベラー ネイサンチェン ケヴィンレイノルズ ゾーン 

あたらしいアイテム
検索はこちらから
QRコード
QR