表現の極意 その7

NHK杯を振り返って、自分と向き合うように静かに、そして心を込めて話す羽生選手です。

「よりもっと細かいところに意味をもって振付をこなす。それによってSEIMEIというものを体現する。それはかなり意識して来れたとは思っています」

「振り付けというものを型として考えて、一つ一つの振りに意味を持たせる事だけでも、自分のイメージの膨らみ方が全然違って、歓声であったり応援であったりが違ったものに聞こえたり」

「今まで何ということなく感じていた、スケートを滑っている時に受けている風っていうのが、自然界にある、もっと大きなものの中に自分がいるんだと。天地人ていう言い方がありますけれど。自分は自然の中に生きているんだというのが、スケートをしていて感じられる。萬斎さんに教えていただいたからこそ、スケートをしている最中にそれを感じられる場面はものすごく増えました」

「自分が、その時に大切にしているものだったり、その時に表現したいって思っているものだったり、そういうものをすごく大切にして、どうやって伝えていくか、どうやって身体で表現していくのかっていう事を追い求めながら、もちろん技術的なものも大切ですけれども、スケートをやっていけたら幸せだなと思っています」


自分は自然の中に生きている。
リンクを疾走する風に、その大いなる自然の息吹き、天地人を感じ取る。
生命の喜びを開放する、素晴らしい感覚だと思います。

萬斎さんが「完璧を目指すのが我々の仕事」と言ったとき、彼の目が輝き、強くうなずきました。
完璧を目指している、けれども本当のそれはどこにあるのか。
オリンピックで優勝しても、世界最高得点に到達しても、さらにまだその先が見える。
その果てしない渇望は、息をのむような戦慄でもあり、目がくらむような絢爛でもあります。

異世界と現世とを行き来するような存在でありながら、それでいて、現世に生きる人々のために闘う晴明。
そんな晴明が乗り移ったかのように、驚異の高得点を連続して出したときには、本当にシャーマンのようでしたけれど、一度地に足をつけたことで、また次の舞台を目指せることを願っています。

さて、萬斎さんは、あるときには「意識する、意識を送る」と言い、あるときには「意識がなくなる」と言っていました。
とても興味深いと思います。
その件は、またいずれ書いてみたいと思っています。



「羽生結弦×野村萬斎 表現の極意を語る」
長い記事となってしまいました。
読んでくださってありがとうございました。
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表現の極意 その6

「Live その場の時間 空気をまとう」

羽生「僕たちはリンクに意識を向けた事がほとんどない。お客さんに向けてか、ジャッジに向けてか。リンクに存在する氷、天井、フェンスを考えた時。ひとつひとつの演技で、例えばロミオとジュリエットならジュリエットを想像してここにいるから、というのもあるかもしれないけれど。架空のものだけではなくて、リンク、フェンス、会場の壁に対しても気を込めるというか。そういうのも大切だなと」

野村「お客さまがいるところには自分も意識を持ち、確認のために、今日はどこまでお客さんが入っているとかをすごく意識する」

羽生「会場の大小もあるが、支配しようとするのか、その空気感のなかに溶け込むというのか、その範囲は壁まで全部なのか」

野村「お能は四本の柱に囲まれているなかにひとつの意識、小宇宙を作りだし、それがにじみ出て壁まで行く。狂言は会話劇だからお客さんに直接語りかけるような意識を相方、対話する人間と一緒にやっていたり。でも両方必要」

羽生「じゃあジャッジに語りかけて?」

野村「それも効率よく、自分のためとジャッジのためとお客さんのためと。やはり場を支配するためには場を味方につける。自分の意識を会場全体に持っていきたい。どこまでお客さんいるのかな、っていう意識が大切」


萬斎さんとの長いお話もここまでとなりました。

そして、NHK杯フリーの演技。
会場を見渡し意識を隅々にまで向ける羽生選手。
奇しくも、あの会場の壁高く、天井付近には、五輪のマークが掲げられていたのですよね。

「自然からあふれ出ているエネルギーを受け取りながら、まとっているように見せられれば、自分が目指しているSEIMEIのイメージに近づける」

「ロミオとジュリエット」のような物語をもたない「SEIMEI」の演技には、そこに時間が流れ展開していくのではなく、むしろ時が止まってしまうような錯覚をおぼえそうになります。
そこに留まっているままに、作品のエネルギーが静かな光のように、リンクに満ちて行くような。
そのような光の感覚は、天井桟敷の隅々にまでわたっていくのではないかと思います。

いつも氷への礼を尽くし、祈りを込めている羽生選手だけれど、天井から壁、フェンスにいたるまでその願いを送り、あるものすべてを味方にし、溶け込み、空気をまとう。
もしかしたらそれが、バルセロナのファイナルにあって、一期一会の完璧を究めるための、支えとなり基盤となったのかもしれません。
生きとし生けるものすべて包み込むような、たからかに透き通るような精神性を感じさせる「SEIMEI」だったと思います。




…続きます

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表現の極意 その5

「Live その場の時間 空気をまとう」

橋がかりから登場する狂言師は、演技するでもなくしないでもなく、その場の空気をまとい身体の中に入れる。

野村「人間の常軌を逸した、一種神かかるというか、自分のなかで意識がなくなる部分がある。
意識がない時の方が気持ちよく舞える」

野村「森羅万象、会場の中の空気、そこを突き抜けた天と地面。
自分と同レベルにいるような生きとし生けるもの、生命、生物に対しての気をちゃんと自分は抑えるのだ、という意識から始めて行く中で、押す、それに対して息するからまとうっていうこともできる」

野村「三番叟では四方に対して気をおさめていく。全部に対してちゃんとアプローチする、というか、気を送るとそれはみんなの意識を自分に向けさせていく挨拶でもある」

羽生「ジャッジに意識を持っていかないといけないので、ジャッジばかりになってしまう。でもお客さんは360度いる。その反応は点数には関係ないかもしれないけれど、表現者として考えるのであれば、絶対みせなくてはならない。常に全身。例えば、ジャッジ側にここを見せているかもしれないけれど、振り付けは後ろのお客さんがメインだったり。そういう意識の違いが大切」

野村「それは精神性がすごく重要。ジャッジという邪な?人だけに対するのではなく、周り全部の空気を感じ取る。その緊張感は場を味方につけるものでもある」



萬斎さんの言葉はますます深くなります。
橋掛かりで呼吸を整えながら、森羅万象の凝縮である舞台へと渡り、その小宇宙の中心に立ち、観客へと意識を送る。
意識を送りながら意識を集め、受け止め、さらに意識をなくし神がかっていくのだとは。
演者と観客との意識が一つに集約されると、そこに出現するのは無の境地なのでしょうか。

360度に囲まれていて、あらゆる方向から観られているスケーターは、精神性をもってその場にいなければ。
萬斎さんはもしかしたら世阿弥の言う「離見の見」を思っていらっしゃったのかもしれません。

観客は、リンクにいるスケーターを見ているだけではなく、リンクの向こう側にいる観客の雰囲気をも感じ取っている。
それはまた鏡のように反射して、見えない場の空気が見えるような錯覚を呼び、その熱気が渦を巻くようにリンクを渡っていく。
「SEIMEI」の演技がその完璧な姿を現した時、彼が宇宙の中心にいるような高揚に包まれた事を思います。



・・・続きます

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表現の極意 その4

「Live 緊張感のなかで~その場の時間、空気をまとう」 

羽生「音に合わせ、気持ちも入れ、ジャンプも跳ばなくてはならない。
練習をしてきて機械的に跳べるようになってきて。
でも、そのライブ感、お客さんの緊張感、ジャッジ、会場の雰囲気、前の選手、そういう中でどう自分のリズム、呼吸を意識するのか」

野村「役者として、舞台に立っただけで何かを感じさせ自分のペースに引きこむ。
声を発しただけで皆がふっと聞き耳を立てるような役者になりたい」

野村「その場とその時間、空気をまとう」

羽生「音楽とかそれだけではなくて、お客さんとか会場の雰囲気」

野村「それに対し挑戦的に位置しすぎるのではなくて、その空気、場を味方につける。まとう。それができると人は喜ぶ」

羽生「相反したもので無理やり来るよりは」

野村「緊張感があったり、あまり緩みすぎでも。前の演技者がどうだったか、駆け引きがあるのでは」


萬斎さんと羽生選手の間に阿吽の呼吸が生じ、共感が広がっているのがよくわかります。
打てば響く、一を言えば十を知るような相手と対話しながら、まるで即興劇を演じているような。
一期一会の舞台に立つことの、喜びも怖ろしさも知り尽くしているからこその、お互いの尊敬と理解なのだろうと思います。

他の選手への歓声が聞こえる会場にあっても、動揺することなく自分の中の芯を持ち続けること。
他の選手が好演であれば、それを自分への起爆剤として凌駕していくこと。
注視、熱気、喝采、その場の空気をまとい味方とし、観客の呼吸さえ自分のリズムに乗せていくこと。
実際に、この冬に、羽生選手がやってみせてくれたこと。
思い出しながら聞いていました。




・・・続きます

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表現の極意 その3

「Live 緊張感のなかで」 ~無の境地に至ること

野村「失敗しても何がおころうと忘れて引きずらない」
羽生「元にあったルートに戻すということ」

野村「4回転など高難度のジャンプは跳ぶぞ!と思って跳ぶのか、それとも流れの中で何も考えずに…」
羽生「それこそ型、型のまま。練習では基本的には跳ぶぞと思ってやってはいる。
でも、音を使ってやる時は、基本的に跳ぶぞということはない。
ステップからの流れを大切にする。ジャンプだけでは考えない」
野村「跳ぼうと思って跳ぶのと、無意識のうちに跳べているのとは。
奥深い話のような気がする」

羽生「僕らはアスリートであって、失敗は明らかに減点され勝敗もそこで決まってしまう。
失敗を失敗ではないように、流れの一つとしてどのようにするのか」

野村「完璧を目指すのが我々の仕事」
羽生「そうですよね、はい」

野村「逆に言うと、あるアクシデントがあってある種の重圧から逃れるというか。楽天的にポジティブに考えるしかない。失敗したら次は自由にやろうと言うか」
羽生「次の決まったところまでは自分が感じるままに」



「流れの中で何も考えずに」と、言葉を止めて虚空に視線を投げた萬斎さんは、ひとりの演技者でした。
そこに、無の境地でジャンプに入ろうとする、羽生選手の一瞬を表現していたと思います。

失敗は完璧を破綻させる。
集中をそぎ、型からも流れからも落下してしまいそうになる。
悔やんでいる間もないライブの場で、自分の感じるままに元に戻る時、そこにまた「無」を見るのでしょうか。

ソチのフリーでは、もう意識がなかったと聞きました。
今回のバルセロナでは「ゾーンに入っていた」とオーサーコーチが言っていました。
ジャンプの途中、空中で回転しながらでも姿勢を修正できるという彼にとって、それはいったい、有なのか無なのか。

彼のジャンプには助走がないのか。
それとも、イーグルの静、ステップとターンの刻と転でさえも、彼にとっては助走なのか。
超絶のあまりにどちらなのかもうわからなくなる、眩暈のするような感覚に、美が宿っているのだと思います。




・・・続きます

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