もういちど「SEIMEI」

自分では落ち着いているつもりだったけれど、でも、
タイムスケジュールのチェックに集中できていません。
こういう時は、もういちど「SEIMEI」を観てみましょう。

ファイナルの会場では、音量を最大に上げてほしいと彼が頼んだと聞きました。
こうしてみると、静寂から始まると思っていた龍笛の音色も、
実は強い息の音であり、気魄がこもっているのが感じられます。



最初に繰り出される三つのジャンプと、その間の流れの美しさ。
清流が速度を増して谷を降りていくのに、苔むした岩にあたって砕けるように、
音楽の強音を伝えて、ターンを繰り返しながら打楽器を演奏するような演技。

曲の転換とともに、動と静を演じ分ける。
瞬間瞬間のしなやかさに、練り絹のような艶が宿っている。

背中から腰、膝の向き、足首の動きの自由、
すべてがなめらかに連動して伝わっていくすがすがしさ。
風が舞うようにジャンプは繰り返され、音楽とともに高揚していく。

柔と剛、旋回と直線、収縮と伸展、それらの明確な対比。
後ろ側から交差される左脚の残像がねじれて螺旋を描き、
最後の一瞬にほどかれて解放され、彼はきっぱりとした十字となる。
天を仰ぎ、地にある人として、まっすぐにそれと対峙する。



息するのも忘れてしまいそうな、奇跡のような演技です。
世界選手権の舞台を、ただ、待ちたいと思います。



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三つの「SEIMEI」

カナダ杯のあとで、チャン選手の完璧な「痺れるような演技」について聞かれた羽生選手は、こう答えています。
「きれいにまとめればいいんじゃないですか」
「そのきれいにまとめるっていう事がどれだけ難しいか、僕たちスケーターにしかわからないです」

カナダ杯 インタ1

-「SEIMEI」はそこまで持って行く?

「持って行きます、絶対。そうじゃないとこれをやる意味がないです」
「これぞ日本、っていうものを出しきれていないんですよ、やっぱり。
自分のなかでジャンプでいっぱいいっぱいだから」
「それじゃあオリンピックチャンピオンじゃない。
そこは絶対やってやるって今思ってます」

その宣言の通り、その後の二つの試合ではノーミスの完璧な演技をみせてくれました。
そして三回の「SEIMEI」には、別々の感情をプログラムに込めた、と言っています。

カナダ杯では
「怒り使いました。かなり、間違いなく。」
「プログラムってその時のその演者の感情が入っていいと思うんですよ」
「スケートカナダの時は、怒っているというか、思いっきり悪霊成敗してやる、みたいなSEIMEIだったし」

「NHK杯の時は、みなさんの力を感じて、それでやったSEIMEIだと思うし」

全日本 インタ2

「ファイナルは、『自分対自然』の中で自分をちゃんと持って、ひとつひとつこなせて行けたのかな、っていう演技だったと思います」

これを聞いて、羽生選手は萬斎さんとの対談をずっと思っていたのかもしれない、と思いました。

確かに、カナダ杯では、SPでの自分に怒っていました。
でも、その怒りにただ駆られたのではなく、「怒りを使った」と分析して、客観的に冷静に自分を見ています。
自分への怒りの感情を、悪霊と闘う強い晴明の姿に変えたのですね。
感情を「使う」のは、高い技術を駆使するアスリートでありながら、演技に没頭するアーティストでもあるために。

そして、新しい演技構成に挑んだNHK杯では、自分の試みをサポートしてくれた人たち、祈るように見つめていた観客の力を感じていた。
それも、「その場の空気を感じ取り、味方につけ、まとう」という意識だったのかもしれません。

ファイナルでの「自分対自然」というのもそうでした。
日本の山河に清々しい風が渡っていくような、大いなる自然と対話するような、天と地の間に彼が凛々しくそこにいるような。
そんな演技だったと思います。

日本を表現しようと高く志し、完璧な「SEIMEI」を目指した羽生選手の耳に、萬斎さんの言葉がずっと響き、導いてくれたのかもしれません。




画像はこちらの動画からお借りしました。ありがとうございます。

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大地の鼓動

昨年放送された、「題名のない音楽会」での「SEIMEI」のオーケストラ演奏をご覧になったでしょうか。
スクリーンに映し出される羽生選手の演技を前に、「SEIMEI」がライブで演奏されていました。



龍笛の演奏がとても美しく響き、流れて行くのが印象的です。
龍笛は、舞立ち上る龍の声を模しているのだそうですが、ホールの大空間を自在に飛翔するその姿が見えるようです。

けれども、何度も耳にしている「SEIMEI」の音楽とは違うふうに聴こえるし、ここは音が入っていないと気がつくところもあります。
「SEIMEI」は、羽生選手が編曲に編曲を重ねたので、採譜するのが難しかったのかもしれませんね。

あらためて指揮者のかたを見ていると、テンポが遅いせいかリズムが取りにくそうに見えてしまい、和洋の音楽の違いを感じてしまいます。
羽生選手の氷上の舞は華麗で軽やかなので、この音楽のテンポが遅いのだということは忘れていしまいそうになります。

その緩やかさをしっかりと力強く支えているのは、リズムを刻む太鼓の音です。
そのパーカッションの演奏を見ると、使われているのは和洋の楽器だけではない事がわかります。

SEIMEI 演奏

私も詳しくはないので間違っていたらごめんなさい。
動画の4:15あたりを見ていただくと演奏風景がわかるかと思います。

右の男性が叩いているのは西アフリカの太鼓・ジャンベではないかと思われます。
その奥ふたつは和太鼓ですね。
中央に吊り下げられているのは、おそらくジュジュという民族楽器だと思います。
その奥の壺のような楽器はシェケレ、女性が持っているのはギロだと思います。

羽生選手が何度も捉えている、風を切り裂くような、鞭打つような印象的な音は、民族楽器の出す音です。
地の底から響き渡るような太鼓は、日本の太鼓とアフリカの太鼓との融合です。

気高く天翔るような龍笛の透明な声と、大地の鼓動のような打楽器の拍動との共鳴。
そう思うと、この作品からまた別の風景が見えてくるような気がします。




動画・画像はお借りしています。ありがとうございます。

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三つのステップ

アスリートかアーティストか、二つにひとつを選ばなければならないとしたら、彼は迷わずアスリートであることを選びます。
それは揺るぎなく徹底しています。
そのためならば演技をばっさりと断ち切ることもいといません。

二年間、大切に取り組んできた「バラード第一番」を、大胆にも変更しました。
そうして新しい舞台を切り開いていきました。
「SEIMEI」のステップもまた、変更されています。



最初の練習風景。
「はっ」というシェイリーンの声に応えて、大きく力強くステップを踏む羽生選手です。
ここは宿敵との最後の戦闘の場面です。
精神を集中し、見えない武器を手に敵をはらい倒します。
陰陽師が地を鎮める反閇のようなクロスロールの脚の運びに、清明な空気が流れていきます。
力は精神とともに内側に集められ、そこから外へ、静かに放たれていきます。
音楽の求めるままに多彩に動きながらも、そこにそのまま静止しているかのようです。

けれどもオータムクラシックで、このステップはレベル2、GOEは1.50の評価を受けました。
難しいステップ・ターンの組み合わせ、左右両方向に完全に身体を回転させる事。
そのカウントのどこで、不足していると判定されたのか、詳しい事はわかりません。
ただ、この演技はシェイリーンとの練習より、少し動きが重たいように感じます。
この時、ジャンプにもミスがあったことを思うと、やはりコンディションがよくなかったのかもしれません。

日本らしさを追求するだけでは、ルールの要求する水準に応えきれない。
フィギュアスケートの競技プログラムとしての和洋の融合、調和を目指さなくてはならないと、再確認したのではないでしょうか。

次のカナダ杯ではバックのクロスロールを外しました。
冷静に分析しカウントした結果、このままではレベルを取ることが難しいと判断したのでしょう。
そしてレベルは3、GOEは1.0の評価を受け、わずかながらもスコアを上げることができました。

でもそれで胸のどこかが痛まないわけではないと思うのです。
自分で曲を選んで、自分の息を吹き込んで、0.8秒にまで神経をめぐらせた作品です。
日本代表であることの誇りをかけて、心血をそそいできたプログラムです。
その、最も日本的な精髄である部分をあきらめる。
その痛みをもって彼はまた、自らの退路を断ち、アスリートであることに徹するのではないかと思います。

提示されたスコアから彼は読み取り、そして判断をくだします。
それでもまだこのステップは、レベル3の評価を受けてしまう事があります。
レベル4を獲得できたのはNHK杯の時だけです。

もしかしたら「SEIMEI」を観られるのは世界選手権が最後かもしれません。
その時、この印象深いステップは、いったいどんな姿を現してくれるのでしょう。


彼にとって何が真で何が善なのか。
邪であろうが何であろうが、審判から評価される事。
勝負に賭け、勝負の前では鬼である事。
その冷徹に、彼の美をまた発見するのです。


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半跏思惟像の微笑

グランプリファイナルの「SEIMEI」の冒頭で、ほんの一瞬微笑んでいる羽生選手の表情を捉えた。
この後息を吸いそして吐き、天を指して旋回するのだが、その時にはすでに鋭い視線で闘う晴明が降臨している。
今までもこんなふうに、一瞬でも微笑んでいたのかどうか、私には記憶がない。

2015 GPF FS スタート

静かに美しく微笑むこの姿に、弥勒菩薩の半跏思惟像を思い出した。
浅田真央選手が中宮寺の弥勒菩薩に似ている、と言われているのだそうだ。
すると羽生選手は、どうだろう、広隆寺のほうに似ているのだろうか。

陰陽道と仏教とは直接の関係はないかもしれないが、同じ時代に日本に伝わった陰陽五行説に発祥しているので、何かの影響はあったのではないかと思う。
それでなくても日本の宗教は、長い習合の歴史を持っている。
日本の美もまた、さまざまな文化が順応し融合する歴史の流れのなかから、やがて独自の花を開かせていく。

この仏像のアルカイク・スマイルとも呼ばれる微笑は、古代ギリシアに発してシルクロードを通り日本へと伝わったとされる。
日本はシルクロードの東の終着点である。
西洋と東洋を結ぶ、距離と時間とのはるかな流れを思う。

「半跏」「思惟」とは、文字通り、脚を組んだ姿勢で思索する姿である。
ほほえみながら、どのように衆生を救うかをじっと考えている。
はてしなく遠い未来をみつめて慈しんでいる。

そう言えば「SEIMEI」の演技に、滑りながら半跏する動きがあったと思って確かめてみたら、残念ながらそれは右膝に左足を乗せるようなポージングだった。
「蘭陵王」にそんな動きがあるらしいので、もしかしたらそれに由来するのかもしれない。
カナダで振付を行い、西洋の目に映った日本の美を演じる事は、日本を客観で見てその神髄に迫る試みである。

「和」のプログラムでのフィギュアスケートは、今までにも何度か試みられてきたが、これほど世界に受け入れられた事はなかった。
羽生選手は、「陰陽師」の映画を探し当て、音楽の編集を繰り返し、さらには日本の先達に道を尋ねた。
そのこだわり、日本を伝えようとする作品への熱意、物事を深く追及する精神も、彼の日本人らしさの一つではないかと思う。


この試合の時彼は、他の選手の演技に動揺し、観客の反応に怒っていたのだと後で知った。
そんな感情の激動をおさめるように、彼は一度、自分で自分に微笑んでみせたのだろうか。
野心も怒りもまた、彼を美しく彩り演出する鍵である。

今、戦士としての彼に、少しの休息の時が訪れようとしている。
静かに微笑むこの姿のように、心を鎮め、あらたな幕開けに備えてほしい。
訪れる新しい年が、彼にとって素晴らしい舞台であることを心から祈っている。

羽生選手は二週間の間に二回も世界を変えてみせた。
世界中の、どれだけ多くの人を魅了したかは測り知れない。
その人々に、平和に、知的に、心をつくし、命を燃やし、美しく生きよと彼はそこにいる。




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