だから、信じる勇気を

「シェイはユヅルがどう動いたらキレイに見えるかわかってるから、もっとシェイと話せって」
と、ボーンさんに言ったのは、宮本賢二先生です。
でも、賢二先生こそ、羽生選手がどう動いたら美しく見えるか、一番よくわかってくださっていると思う。
それで私は、「Believe」が一番好きです。



ストレートで、シンプルなメッセージ。
きっぱりとした力強さ。
メロディーを歌いリズムを刻むエッジ、なめらかに繰り返されるターン。
空を飛ぶように海を渡るように、軽やかにリンクを舞って行くスピード。

アクセルを降りてそのままターンして、
背中をたわめて身体に力を集めるところ。
トウで音を叩きながら前へ前へと出て行くところ。
長調から短調に転調すると演技も姿を変えるところ。
イナバウアーで顔をおさえて涙をこらえるところ。
トウアラビアンからフライングキャメルへ躍動するところ。
シットスピンでシャワーのようにあふれて行くところ。
宙を跳ぶようにツイズルしながら首を振って激情を見送るところ。
アウトイーグルで優しく探し、インイーグルで強く抱きしめるところ。

闘うのは、愛するため。
だから、信じる勇気を待っています。



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テーマ : フィギュアスケート
ジャンル : スポーツ

けれども、時々つらくなる

時空を旅して氷上に祈る人。
彼が捧げる鎮魂と追悼の、なんと澄みきって、力強く、美しい事かと思います。

でも、時々つらくなることがあります。

暑い夏、Tシャツ姿で太陽を浴びながら、仮設住宅を訪れた時と、
寒い冬、マフラーに冷たい風を避けながら、壊れた土地に祈っていた時。
荒涼とした場所で、その身に受け取る悲痛さは、突き刺さるような痛みだったのかもしれません。

そのせいか、深夜のリンクで繰り返すジャンプの音は、自分を鞭打つ響きであるかのように聞こえました。

自分一人で被災地を背負おうなんて、そこまで思っているとしたら、それはあまりにつらすぎる。
誰も追従を許さない高みに上りつめた事で、もしかしたら、その責任もずっしりとのしかかってきたと感じているのかもしれない。
競技会のあとのエキシビションで、みんながお祝いをしているのに、ひとりだけ辛いテーマを掲げる孤高も、重たさを増しているのかもしれない。

盛岡の時のように、観客もスケーターも一緒になって、一つを目指していく幸せに救われていてほしい。
当事者だったり部外者だったり、それは、分けようと思っても分けられないものだから。

世界はあなたを愛してくれる。
世界はあなたを助けてくれる。

あなたが世界を信じ、そして愛しているように。


テーマ : フィギュアスケート
ジャンル : スポーツ

氷上の祈り

「明日へ つなげよう」氷上の祈り~NHK杯スペシャルエキシビションの舞台裏。
大槌町を訪れるのは初めてだったのですね。

「どういう表情で今暮らしているのか、どんな気持ちで暮らしているのか、直接聞くわけではないかもしれないけれども、
言葉とか雰囲気とか、そういうものを通して、自分がこれから震災というものに多分ずっと携わっていかなきゃいけないと思うので、そのなかでちょっとでも役に立って、みなさんの思いが伝えられるようになったら」

「言ってみれば部外者だから僕たちは。人の心に踏み込んじゃいけないところって絶対ある」

「でも、こういう風景を見てる時に思うのは、ほんとに何ができるかなっていう事はいつも思います。花は咲くの歌詞にもあるけど、何を残したんだろうとか」
「僕たちは今、生きているなかで、逆に何を残せるんだろう」

クレーンが並び工事の続く街を、車の窓からのぞく羽生選手。
寒い風のわたる高台を訪れ、灰色の庁舎に祈りを捧げ、子供たちの未来と触れあってゆきます。
曇った窓の向こうの冬の街がしだいに日暮れてゆき、やがて夜が訪れます。
一日の終わりを惜しむように、深夜のリンクで練習を重ねる彼の姿に、新たな決心を感じました。

こちらはエンディングに使われていた、ケルティック・ウーマンの曲です。



夜明け前の冷たい空気の中、暗闇から青い光がたちこめてきて、それがやがて朝を呼び覚まし、希望が満ちてゆきます。

今回のエキシビションでは、4人で滑った「花は咲く」や、オープニング、エンディングの群舞がとても美しくて、動きも表情もやわらかく心がこもっていて、強く印象に残りました。
メイキングでも、よいショーを作ろうと一生懸命で、しかもとても楽しそうでした。
フィギュア界のトップに上りつめ、ひとりで走り続けているからこそ、
誰かと一緒に微笑みをかわしながら滑ることの喜びを、彼は噛みしめているのではないかと思いました。


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時の旅人

シーズンの真っ最中なのに、どうしてショーに出るんだろう。
それも、2回も、なぜだろう。
と、思っていました。

盛岡のスペシャルエキシビション、そしてニューイヤーオンアイス。
今日は「天と地のレクイエム」を演じるのだとばかり思っていたのに、
「ザ・ファイナル・タイム・トラベラー」だったと聞いて、
明日がどういう日なのか、申し訳のない事に、初めて気がつきました。

盛岡のフィナーレで、あの水色の衣装を着ていました。
ドレープに彩られた華麗な衣装とは裏腹に、苦渋に満ちた険しい表情でした。
なぜあの時、あの衣装を着ていたのかにも、初めて気がつきました。

神戸のFaOIでのスピーチを思い出します。
「この神戸の街が、復活したというよりもまた新しくこんなに素敵な街になって、
こうやってみなさんの前で滑ることができ、ほんとにうれしく思います。」

「復活したというよりも」「また新しく」と彼は言っていました。
傷つくこと、失うことを知ってしまった街、戻れない人々。
その悲しみを超えて、時間を越えて、そこに新しい街をつくりだそうと彼はしています。

東北もきっと、神戸のように美しく新しく再生されるように。
阪神の祈りと東日本の願いとがつながれるように。
記憶が未来の夢へと開かれるように。
彼は時空の旅を続けるのだろう、と思いました。



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ニースのロミオ、そしてレクイエム

「羽生選手の次に浅田選手という順番だったことによって強く感じたのは、羽生選手は東日本大震災において、当事者の側にあるということでした。 」

昨日、くすのきさまがくださったこの言葉に、胸がいっぱいになり、なんだか、夜眠れなくなるような感じでした。
くすのきさま、こんな感覚を持っていらっしゃるのですね。
大切なお気持ちを書いてくださってありがとうございます。

都築章一郎先生の目から見た、あの頃の羽生選手の姿です。

恩師が見つめてきた羽生結弦の進化 「五輪王者」という夢が実現した瞬間

「震災後に会ったとき、「この子は今後スケートを続けていけるのか」というのは感じましたね」
「今思えば、震災のときは五輪のメダルを取れたのが奇跡だったと思うくらい傷心していました」
「言葉を掛けるというよりは、見守るしかなかった状態ですね。技術を教えるわけでもなく、あの子がそういう状況からどうやって立ち直り、スケートにもう一回挑戦をするか。自分の当初の目標としている姿にどう回復していけるか。でも、そうした中でも彼は非常に冷静で、自分の技術に対して取り組む姿勢はしっかりしていました。それは大したものですよね」

~もう立ち直ったなと感じた瞬間は?
「やはり世界選手権ですね。3位という結果を残したので、立ち直ってくれたなと思いました。」

道をさがして迷い葛藤しながらスケートを続け、3位という結果を出すまでの一年間。
それは「ロミオとジュリエット」を究めるための、阿部奈々美先生との長い旅でした。
シリーズ初戦の中国杯では無理をし過ぎて転倒してしまった彼へ、先生の言葉。
「がむしゃらに跳ぶことが正解ではないのよ」
「つい欲を出してしまう、その弱い自分と戦いなさい」

そしてニースで3位となったとき、彼はこう言っています。
「この一年間、震災とか、ほんとに日本ではいろんな問題がありましたし、ほんと大変なシーズンでしたけど、やっとなんか、なにか自分の中で、震災を乗り越えられたな、というような気がしました」
だから、エキシビションで「ホワイトレジェンド」を披露できることを、心からの喜びとしたのでしょう。

さらに、3位の表彰台から、彼は次のステージへ踏み出す決意を固めます。
「もうスケートは自分だけのものではないんだ。表彰台に立ったからには、自分の感情は優先させちゃいけない」



震災にあって、子供の頃から生きるよすがであったはずのスケートが彼を苦しめる。
先日、大槌町で、自分を「部外者」と言ったことの冷徹さに、いまだ彼に残る痛みを感じました。
被災者でもあり支援者でもある事は、二つの感覚にねじれて引き裂かれるようだったのかもしれません。
それを克服する事は、悲劇を生き延びた人たちがどう立ち直り、生きていく自分を許していくのかをなぞる物語に重なります。

どちらに進んでいいかわからない迷いから、自分も傷ついた者である事に目を伏せない決心へと昇華していく。
それは彼にしかない個人的経験でありながら、すべての人に共通する、再生への道のりなのかもしれません。
強さと弱さは光と影のように、裏表に重なっているのでしょう。

「花は咲く」の浄化、「レクイエム」の激情、「ジュピター」の希望。
それぞれが珠玉の短編小説のように響きあう、美しい鎮魂の舞台でした。





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