表現の極意 その1

昨年末に放送された「羽生結弦×野村萬斎 表現の極意を語る」。
貴重な対談の、これまで公開されていなかった部分も放映されていました。

晴明は、違う世界と交信している、つながっている存在である。
映画ではそのニュアンスを表現するため、一挙手一投足、所作や間に工夫したという萬斎さん。
ただ印を結ぶのではなくそこに威力を持たせるために、指先ひとつの表現にも、狂言師である事の技が役に立つ。

「不自然な事に、観ている人の想像力を働かせるのが真骨頂」

360度に観客がいるなかで、ベクトルを全方向に使うために「天地人」を意識して集中する。
それは、観客にすべてが伝わるかどうかではなく、自分が振りにどう意味を込めるか、ということ。

羽生「一つの型でも喜怒哀楽があったりだとか、みなさんに捉えてほしいイメージがまた違ったり。それは自分がそれになりきるのか、観てもらう事を意識してそれをやるのか」

野村「演技者としては、なりきって気持ちから入る方法論と、我々のように型から入る方法論とがあるが、それは両輪。
人が泣いていることで、気持ちいいとか美しいとか思わせる事は表現者として重要な事。
それを裏打ちする気持ちもないと、形だけになってしまう。
気持ちも重要だし、人に表現として見せる、両方が必要。
スケートでも、体操しているような人と、パッションを感じる人と、両方できる人が一番強いのでは」

羽生「そこが一番めざさなくてはいけない所。アスリートでもありアーティストでもある」
「勝敗があるから、難易度の高いものをめざすアスリートでありつつ、アーティストとして振り付けだけではなく気持ちも入れなくては」

野村「音についたり離れたりというのが自在にあるのが僕らの感覚」

羽生「忠実にリズムとか全部やるよりは一瞬の間からさらに持って行く」


「晴明の舞」が即興であったとは初めて知りました。
あらためてその舞を見ると、かさねられた大袖の、重たさのあるゆっくりとした動き、腕の動作から遅れて翻りながらついてくる様子が、いかにも日本の美だなあと思います。
それはスケートではなかなか表しにくいところでしょうけれど、「SEIMEI」には、羽生選手が大きな袖を目で追うようにして払い、ないものをあるように表現しているのではないか、と思うシーンがあります。

すべての音を捉えるのではない。
沈黙もまた音である。
抑制し、定められた型として体現するその先に「和」の表現がある。
そこに、どう感情を宿すのか、そしてどう、観ている人の想像力を引き出すのか。
間を置き省略する文化とは、受け手の自由を許し委ねる、寛容さの美学なのかもしれません。




・・・続きます
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荒ぶる神

羽生選手の「SEIMEI」で、あの何とも言えず印象的なステップのシーンは、映画「陰陽師」のクライマックスで、晴明が強力な敵と最後の対決をする光景なのだという。
晴明は武器を持たず霊力で闘い、華麗に舞いながら邪悪な相手に勝利する。
羽生選手はその姿を表現し、大きく強く動きながら、鼓動を刻む太鼓を自らが打つように、ステップを踏み舞い踊る。

2015 Skate Canada FS 1-1

しかし、あのステップで流れる太鼓の音は、闘う晴明のシーンで流れているのではない。
それは、「陰陽師2」に使われている「荒ぶる神」という曲。
羽生選手は、別々の場面と音楽とを選び取って組み合わせ、編曲を完成させていた。
単調にも聞こえる打楽器の演奏に多彩なステップを載せ、演技の序盤から中盤へ、静かに高鳴っていく緊迫感を与えた。
彼の柔軟な発想力、物語と音楽をとらえる直感力には、脱帽するほかはない。

2015 Skate Canada FS 2

「荒ぶる神」が流れるのは、例えばこんなシーンだ。

夜の都にあらわれ、人を喰らい、闇に吠える鬼、須佐。
鬼は矢で射られる。
夢遊病に夜をさまよう、白い装束の日美子。
塀の向こうから手を差し伸べ、二人は何かを交感する。
日美子は鬼を助け、手当てをする。

陰陽師 2-1

博雅の笛と琵琶を合わせて奏する須佐。
須佐の腕にまがまがしい印があらわれる。
日美子の腕も同じく痛み始める。

須佐を結界に封じた晴明。
しかしそれが破れ、須佐は博雅と晴明に襲いかかる。
須佐がまさに晴明を喰らおうとしたとき、博雅が笛を吹き鳴らし、晴明は救われる。
博雅は須佐に残る人の心を感じ取る。


日美子と須佐は引き裂かれた姉弟であり、須佐は無理やり鬼にされた子供である。
怨恨に囚われ鬼となって、日美子を襲い都を襲う須佐は、荒ぶる神となろうとしている。
博雅と共に神の領域へ赴き、その笛の音と、舞い踊る力とによって戦い抜く晴明。



都の闇に人を喰らう鬼、須佐。
鬼とは、強烈であることの化身でもある。
羽生選手は、「SEIMEI」への挑戦を、自分自身を喰らう、と言った。
それは「過去の自分を超える」という意味だ、と。

レスブリッジの彼は、昨日の自分に激高する鬼のようだった。
世界最高難度に挑むには、人が心に秘めている鬼を呼び覚まさなくてはならないのだろうか。
その荒ぶる鬼の魂が、気高く勝利する「和」の精神と調和したのなら、どんなにか美しい事だろうと思う。


映画の最後に晴明は言う。
「鬼がいなくては、人の世は味気なかろう。たっぷりと退治してやろうぞ」




画像は動画よりお借りしました。ありがとうございます。

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和の衣装

暑中お見舞い申し上げます。
涼やかな羽生選手の「SEIMEI」で、暑気も邪気も祓いたいですね。
光にきらめいて透き通るような白い衣装は、和と洋が融合する演技の最初のインパクト。
「SEIMEI」を通じて、平安貴族の衣装美学にも、世界から関心を持ってもらえるといいですね。

2015 DOI

こちらは「陰陽師」の野村萬斎さんの狩衣姿。
伊藤英明さんの冠直衣(?)と並ぶと、その違いがわかりやすいかと思います。

陰陽師

さて、羽生選手のこの衣装について。
もちろん、演技が最優先なので大きな袖をつける事はできません。
完全な再現はできなくても、演技を引き立てながら日本美を伝える衣装であってほしいと思います。
当時の男性が髪を結わず何も被らずに出歩くのは、普通ではあり得ない事だったようですが、まさか烏帽子をかぶることもできません。
せめて額を出すヘアスタイルにしたらどうでしょうか。

首まわりから肩にかけての形はよくできていると思いますが、肩幅は少し張り過ぎでしょうか。
袖と身頃が後ろでしか縫い付けてなくて、単が見えている感じはよく出ていると思います。

一番違うと思うのは、折りたたんでふっくらしている狩衣の前身頃が、衣装ではぴったりしているところでしょうか。
伊藤さんはここに帖紙を入れていて、大きなポケットのように使うのがちゃんと再現されています。
ここを、「バラード第一番」のように少しふわりとさせたらどうかな、と思います。
素人考えなのですが、身体にフィットさせずに大きく見せるのが、日本の衣装の基本なのではないか、という気がします。

共布の帯もきれいだと思います。
腰のまわりで狩衣がひらめくのも、疾走感や、ジャンプの華麗さを強調して、とても美しいと思います。
その下の指貫にあたるパンツはもしかしたらベロアなのかなと思うので、絹に見えるような素材だといいかもしれません。

そういえば、背中に金色の五芒星が縫い取ってあって、これは家紋を表しているのではないかと思います。
でも、家紋を衣装に着けるのは、戦国時代以降の武家の衣装のようです。

などといろいろ書いてみましたが、羽生選手はあまり衣装を変えないのでこのままなのでしょうね。
よく似合っているので、それはそれでいいのかな、というのが結論です。


こちらの「YUZU DAYS」もどうぞ。




光村推古書院「日本服飾史・男性編」を参考にさせていただきました。
画像は動画よりお借りしました。ありがとうございます。

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リード姉弟の「陰陽師」

2013年のNHK杯・リード姉弟がEXで演じた「陰陽師」の動画

緩から急へと、はっきりとした二部構成になっていますね。
羽生選手が力強いステップに使っているメインテーマが、こちらではゆったりと舞われているのが面白いと思います。
こうしてみると羽生選手の「SEIMEI」は鋭角的で、きっぱりとした、闘う晴明なのだとあらためて思います。

そして演技の後半では、速度が上がって、和太鼓の力強い演奏に変わっています。
この部分が映画「陰陽師」からとられているのかは、ちょっとよくわかりませんでした。
羽生選手は、もっと盛り上がる部分がある、と言っているので、どうなるのか楽しみです。

途中で舞扇を渡し、キャシーさんが一人で二つ使う所など、とても工夫されていると思います。
ただ、晴明の時代には、こういう扇はまだなかったのでは、と思います。
衣装の時代考証って難しいですね。
その点はまた次の機会に。

リード姉弟 陰陽師

キャシーさんは引退されましたが、クリス選手は村元哉中選手と新しくカップルを組まれるそうなので、これからどんな演技をみせてくれるのか、期待したいと思います。




画像は上記動画よりお借りしました。ありがとうございます。

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結と弦

羽生結弦という世にも美しいお名前について、
pupuさまが「字統」を調べてくださったので、私は同じ白川静先生の「字通」を調べてみました。

「結」
「吉は士(鉞頭の形)で祝詞の器をおおい守る意で、その呪能を中に封じ込める意がある。
結ぶということも、そのような呪的な意味を持つ行為であった。(中略)
古代の歌謡に、紐を結ぶことが象徴的な意味を含めて歌われることが多く、後世にも祝い紐の俗がある。
すべて交結する意に用いる。」


この「鉞」とはまさかりの事です。
「吉」は、「士」つまり、まさかりが「口」を上からおおい、守っている形を表す。
このような場合の「口」は、祈りにつかう器の形をあらわしていて、それは「祝」や「呪」とも共通しています。



さて「新大字典」というまた重たい本で、今度は「弦」を調べてはっとしました。

「弦」
「ゆみはりづき/半月」


ゆみはりづき。
弦月、弓張月、上弦の月、下弦の月。
なんという、美しい日本語でしょう。
それが彼の名に隠されていたのですね。



「SEIMEI」の衣装や、静かな竹林のような緑色の照明を、竹取物語の世界、と見た方もいらっしゃったようですね。

DOI2015 SEIMEI

安倍晴明が呪を放ち、月の満ちるのを夜の空に留めおいたとしたら。
ずっと弦月が結ばれたままであれば、かぐや姫が月へ帰ってしまうことはありません。




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