アイスジュエルズvol.3 …チーム羽生と自立の問題

スケートのための「チーム羽生」と、羽生選手の自立についてが、同じ文脈のなかで語られる。
それは多分、「チーム羽生」と、羽生選手のご家族とが重なっているからですよね。

ここで言う「チーム羽生」とは何か、誰と誰の事を指しているのか。
「自立」とは何か、ひとりの子どもが親から自立することなのか、選手としての活動をめぐってなのか。
公の事を言っているのか、私の事を言っているのか。
あいまいなままに、誰でも知っていることのようにして、話が進んでいます。

この境界のなさ、分けようもなく混然となった感じが、はからずも、羽生選手が身を置いている現状を表しているのかな、と思いながら読みました。

これは私の推測、想像なのですが、羽生選手が平昌で引退したいと言う事の理由の一つには、二人三脚で世界を回ってきたお母様をご家族のもとに戻したい、という気持ちもあるのでは、と思っています。
逆に言うと、現役の選手である間は、お母様のお力を借りていくつもりなのではないかな、と。


「チームブライアン」は、オーサ―コーチを中心とする、クリケットクラブでの集団指導のことを指しているので、羽生選手専属ではありません。
でも、最高レベルの専門家たちが集まり、あらゆる面から選手を育て、素晴らしい環境を提供してくれます。
「チーム羽生」はこれに対して、羽生選手専属のサポート体制を指しているのでしょう。
だからもちろん、「チームブライアン」の一員である羽生選手は、両方のサポートを受けているので、いいバランスを保ちながら、権限を住み分けしながらやっていけているのだろうと思います。

選手としての「自立」と言えば、自分の頭で考え、プログラムや音楽を自分で構成していく事を指しているのかな、と思います。
例えば、シーズンの途中で「バラード第1番」を大胆に改変したこと。
その結果、軛を断ち切り、魂が叫んでいるような凄味のある、一期一会が実現しました。

でも、矛盾しているようですが、「自分で考え自分で決める事=自立」とは必ずしも言えないのではないか、という気がします。
コーチや他の専門家のアドバイスに耳を傾け受け入れること、それもまた、精神が自立し自由であることの証しではないかと思います。

もちろん、自分で出した結果は自分で引き受けなくてはなりません。

羽生選手はいつも、音楽を大切にし表現に意味を持たせたい、と志すのですが、勝敗のかかった試合になるとなかなかそうもいかないようです。
そして、負けたことを起爆剤にしていると、そういう方向性のプログラムしか選べなくなるのでは、と思います。
オーサーコーチ、トレーシー、宮本賢二さん、萬斎さん。
導いてくれる人がたくさんいること、彼に手を差し伸べたいと願っている、優れた人たちがたくさんいることを、大切にしてくれたらな、と思います。



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表現の極意 その7

NHK杯を振り返って、自分と向き合うように静かに、そして心を込めて話す羽生選手です。

「よりもっと細かいところに意味をもって振付をこなす。それによってSEIMEIというものを体現する。それはかなり意識して来れたとは思っています」

「振り付けというものを型として考えて、一つ一つの振りに意味を持たせる事だけでも、自分のイメージの膨らみ方が全然違って、歓声であったり応援であったりが違ったものに聞こえたり」

「今まで何ということなく感じていた、スケートを滑っている時に受けている風っていうのが、自然界にある、もっと大きなものの中に自分がいるんだと。天地人ていう言い方がありますけれど。自分は自然の中に生きているんだというのが、スケートをしていて感じられる。萬斎さんに教えていただいたからこそ、スケートをしている最中にそれを感じられる場面はものすごく増えました」

「自分が、その時に大切にしているものだったり、その時に表現したいって思っているものだったり、そういうものをすごく大切にして、どうやって伝えていくか、どうやって身体で表現していくのかっていう事を追い求めながら、もちろん技術的なものも大切ですけれども、スケートをやっていけたら幸せだなと思っています」


自分は自然の中に生きている。
リンクを疾走する風に、その大いなる自然の息吹き、天地人を感じ取る。
生命の喜びを開放する、素晴らしい感覚だと思います。

萬斎さんが「完璧を目指すのが我々の仕事」と言ったとき、彼の目が輝き、強くうなずきました。
完璧を目指している、けれども本当のそれはどこにあるのか。
オリンピックで優勝しても、世界最高得点に到達しても、さらにまだその先が見える。
その果てしない渇望は、息をのむような戦慄でもあり、目がくらむような絢爛でもあります。

異世界と現世とを行き来するような存在でありながら、それでいて、現世に生きる人々のために闘う晴明。
そんな晴明が乗り移ったかのように、驚異の高得点を連続して出したときには、本当にシャーマンのようでしたけれど、一度地に足をつけたことで、また次の舞台を目指せることを願っています。

さて、萬斎さんは、あるときには「意識する、意識を送る」と言い、あるときには「意識がなくなる」と言っていました。
とても興味深いと思います。
その件は、またいずれ書いてみたいと思っています。



「羽生結弦×野村萬斎 表現の極意を語る」
長い記事となってしまいました。
読んでくださってありがとうございました。

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表現の極意 その6

「Live その場の時間 空気をまとう」

羽生「僕たちはリンクに意識を向けた事がほとんどない。お客さんに向けてか、ジャッジに向けてか。リンクに存在する氷、天井、フェンスを考えた時。ひとつひとつの演技で、例えばロミオとジュリエットならジュリエットを想像してここにいるから、というのもあるかもしれないけれど。架空のものだけではなくて、リンク、フェンス、会場の壁に対しても気を込めるというか。そういうのも大切だなと」

野村「お客さまがいるところには自分も意識を持ち、確認のために、今日はどこまでお客さんが入っているとかをすごく意識する」

羽生「会場の大小もあるが、支配しようとするのか、その空気感のなかに溶け込むというのか、その範囲は壁まで全部なのか」

野村「お能は四本の柱に囲まれているなかにひとつの意識、小宇宙を作りだし、それがにじみ出て壁まで行く。狂言は会話劇だからお客さんに直接語りかけるような意識を相方、対話する人間と一緒にやっていたり。でも両方必要」

羽生「じゃあジャッジに語りかけて?」

野村「それも効率よく、自分のためとジャッジのためとお客さんのためと。やはり場を支配するためには場を味方につける。自分の意識を会場全体に持っていきたい。どこまでお客さんいるのかな、っていう意識が大切」


萬斎さんとの長いお話もここまでとなりました。

そして、NHK杯フリーの演技。
会場を見渡し意識を隅々にまで向ける羽生選手。
奇しくも、あの会場の壁高く、天井付近には、五輪のマークが掲げられていたのですよね。

「自然からあふれ出ているエネルギーを受け取りながら、まとっているように見せられれば、自分が目指しているSEIMEIのイメージに近づける」

「ロミオとジュリエット」のような物語をもたない「SEIMEI」の演技には、そこに時間が流れ展開していくのではなく、むしろ時が止まってしまうような錯覚をおぼえそうになります。
そこに留まっているままに、作品のエネルギーが静かな光のように、リンクに満ちて行くような。
そのような光の感覚は、天井桟敷の隅々にまでわたっていくのではないかと思います。

いつも氷への礼を尽くし、祈りを込めている羽生選手だけれど、天井から壁、フェンスにいたるまでその願いを送り、あるものすべてを味方にし、溶け込み、空気をまとう。
もしかしたらそれが、バルセロナのファイナルにあって、一期一会の完璧を究めるための、支えとなり基盤となったのかもしれません。
生きとし生けるものすべて包み込むような、たからかに透き通るような精神性を感じさせる「SEIMEI」だったと思います。




…続きます

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表現の極意 その5

「Live その場の時間 空気をまとう」

橋がかりから登場する狂言師は、演技するでもなくしないでもなく、その場の空気をまとい身体の中に入れる。

野村「人間の常軌を逸した、一種神かかるというか、自分のなかで意識がなくなる部分がある。
意識がない時の方が気持ちよく舞える」

野村「森羅万象、会場の中の空気、そこを突き抜けた天と地面。
自分と同レベルにいるような生きとし生けるもの、生命、生物に対しての気をちゃんと自分は抑えるのだ、という意識から始めて行く中で、押す、それに対して息するからまとうっていうこともできる」

野村「三番叟では四方に対して気をおさめていく。全部に対してちゃんとアプローチする、というか、気を送るとそれはみんなの意識を自分に向けさせていく挨拶でもある」

羽生「ジャッジに意識を持っていかないといけないので、ジャッジばかりになってしまう。でもお客さんは360度いる。その反応は点数には関係ないかもしれないけれど、表現者として考えるのであれば、絶対みせなくてはならない。常に全身。例えば、ジャッジ側にここを見せているかもしれないけれど、振り付けは後ろのお客さんがメインだったり。そういう意識の違いが大切」

野村「それは精神性がすごく重要。ジャッジという邪な?人だけに対するのではなく、周り全部の空気を感じ取る。その緊張感は場を味方につけるものでもある」



萬斎さんの言葉はますます深くなります。
橋掛かりで呼吸を整えながら、森羅万象の凝縮である舞台へと渡り、その小宇宙の中心に立ち、観客へと意識を送る。
意識を送りながら意識を集め、受け止め、さらに意識をなくし神がかっていくのだとは。
演者と観客との意識が一つに集約されると、そこに出現するのは無の境地なのでしょうか。

360度に囲まれていて、あらゆる方向から観られているスケーターは、精神性をもってその場にいなければ。
萬斎さんはもしかしたら世阿弥の言う「離見の見」を思っていらっしゃったのかもしれません。

観客は、リンクにいるスケーターを見ているだけではなく、リンクの向こう側にいる観客の雰囲気をも感じ取っている。
それはまた鏡のように反射して、見えない場の空気が見えるような錯覚を呼び、その熱気が渦を巻くようにリンクを渡っていく。
「SEIMEI」の演技がその完璧な姿を現した時、彼が宇宙の中心にいるような高揚に包まれた事を思います。



・・・続きます

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表現の極意 その4

「Live 緊張感のなかで~その場の時間、空気をまとう」 

羽生「音に合わせ、気持ちも入れ、ジャンプも跳ばなくてはならない。
練習をしてきて機械的に跳べるようになってきて。
でも、そのライブ感、お客さんの緊張感、ジャッジ、会場の雰囲気、前の選手、そういう中でどう自分のリズム、呼吸を意識するのか」

野村「役者として、舞台に立っただけで何かを感じさせ自分のペースに引きこむ。
声を発しただけで皆がふっと聞き耳を立てるような役者になりたい」

野村「その場とその時間、空気をまとう」

羽生「音楽とかそれだけではなくて、お客さんとか会場の雰囲気」

野村「それに対し挑戦的に位置しすぎるのではなくて、その空気、場を味方につける。まとう。それができると人は喜ぶ」

羽生「相反したもので無理やり来るよりは」

野村「緊張感があったり、あまり緩みすぎでも。前の演技者がどうだったか、駆け引きがあるのでは」


萬斎さんと羽生選手の間に阿吽の呼吸が生じ、共感が広がっているのがよくわかります。
打てば響く、一を言えば十を知るような相手と対話しながら、まるで即興劇を演じているような。
一期一会の舞台に立つことの、喜びも怖ろしさも知り尽くしているからこその、お互いの尊敬と理解なのだろうと思います。

他の選手への歓声が聞こえる会場にあっても、動揺することなく自分の中の芯を持ち続けること。
他の選手が好演であれば、それを自分への起爆剤として凌駕していくこと。
注視、熱気、喝采、その場の空気をまとい味方とし、観客の呼吸さえ自分のリズムに乗せていくこと。
実際に、この冬に、羽生選手がやってみせてくれたこと。
思い出しながら聞いていました。




・・・続きます

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