神様が与えてくれた試練 その3

ボストンの街並みには風情がある…素敵な事を言いますね。
「フィギュアスケートTV」のインタビューから、少しずつ振り返ってみたいと思います。

「神様からの試練」と言っていた放送は、このインタビューの一部なのですね。
しばらくぶりに見るワールドの演技の断片は、風のようにリンクを渡っていく彼の姿が、美しくもありほろ苦くもありでした。
ハイドロの左足のポジションを最後まで保持できず、もう限界にきています。


ボストンの空港に着いたとき、
「やることはやってきたので。
自分自身、会場に入ったらもっともっと気持ちも上がってくると思うので。
それ自体も楽しみながら、またしっかり試合に集中して、自分をコントロールできたらいいなと思います」

それはまるで、この先数日間に彼の身に起こる事を予言しているかのようでした。
自分のなかに、コントロールできないなにものかがある事を自覚しているからこそ、それを制御しなければならないと、自らを戒めていたのかもしれません。

ジャンプの構成を上げる。
SPとFSの二本をそろえる。
ノーミスの、完璧な演技を。
世界最高得点の更新。
もちろん、世界王者のタイトル奪還。

さらに深刻になるかもしれない足の故障の不安をかかえながら、そういう極限を目指していたのです。
そして残念ながら、その負荷の重たさに彼は耐えきることができませんでした。


SPの練習の時の出来事を、「Number」の野口美恵さんはこう書いています。
「トロントでフェルナンデスと切磋琢磨している時には起きなかった、自己中心的な気持ちが芽生えた。
他の選手の動きが視界にちらつき、自分に集中できない。
それは苛つきへと変わり、得意のトリプルアクセルさえ転んでしまう。
思わず怒りをあらわにし、壁を叩いた。どんな状況であれ、壁を叩くのはフィギュアスケートではマナー違反である」

そして、オーサーコーチに諭され、怒ってしまった自分を省みる。
「皆が支えて下さってここまで来たのに、一瞬『自分ひとりが(努力している)』と考えてしまった。すごくひとりよがりになっていた」


それなのにどうして、故意だと思うなどとメディアの前で口にしたのか、とても残念に思っています。

試練は、彼の外側にあるのではなく、彼の内側にあるのだと思います。

だから、二人の選手が握手できたのは本当によかったと思っているし、彼らの未来に幸いあれと願っています。


「SEIMEI」の最後には「ありがとうございました」と頭を下げ、そして、素晴らしいエキシビションを舞ってくれました。
どんなに手に入れたくても届かないもののある悲しみが、まだそこに漂っているかのようでした。



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ダイヤモンドをさがして

「フィギュアスケート 美のテクニック」
この本は野口美恵さんが書かれ、樋口豊先生が監修を、太田由希奈さんが演技のモデルを務められた一冊です。
2011年の発行なので、その解説、内容には、日進月歩するスケート界に合わなくなってしまったところも多くあります。
羽生選手については、2010年のロシア杯でチャン選手のエッジワークに感動し「これまでエッジが深いと加速するなんて思わなかった」と言っているような、まだそんな状態です。
羽生選手の目を開かせたそのエッジワークこそ、どんなにフィギュアスケートが進歩しても変わる事のない、スケートの神髄です。

フラットではなく、インとアウトのエッジに深く乗って、円の軌道を描いていく。
そのパワーを足元から身体全体へ伝えていく。
バレエのような美しい動作を基本に、氷上で円を描き、流れとともに「滑る」ことが、フィギュアスケートの美のテクニックである。

樋口先生は、足の裏の重心とブレードの滑る場所とがマッチする一点、それを「ダイヤモンド」と呼んでいらっしゃいます。
その一点に乗って滑っていく理想のスケーティングは、教えられても見つけることはできない。
自分の感覚の中で、苦労してつかんでいくしかない。

そして、正しいエッジに乗って、高さと飛距離があり、降りてなお流れて行くジャンプは、それ自体が一つの表現である。
それももちろん、スケーティングがしっかりとできているからこその賜物である。


そしてこの本には「エッジワークの欧州、スピードの北米」と、追求されてきたスケーティングのタイプの違いが解説されています。
正確なカーブを描くことに重点を置くロシアのスタイル、速度に乗って伸びやかに滑る北米のスタイル。
そのアプローチの仕方の違いは、言われてみれば、そう、思い当ることがいろいろあります。
もちろん、その両方を追い求める事に、究極のスケーティングがあるのかもしれません。


さて、この本では清塚信也さんがショパンについて話していらっしゃいます。
クラシックは美学、哲学であり、間接的な表現である。
音楽には和音(縦)とメロディ(横)があって、ショパンはメロディで音楽を表現する、それが彼の美徳である。
ライバルのリストは、逞しい身体と大きな手で超越技巧のピアノを弾く。
病気がちで手の小さいショパンは、違うやり方でサロンに集う貴族の心をつかむ。
場の空気を読み、臨機応変に曲を選び、求められるものに応えていく。

とても、胸に響きました。




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パトリック・チャン選手と、再び

「AERA」2015年12月14日号の、野口美恵さんの記事。
カナダ杯からNHK杯までについて、2ページほどしかないこの記事は、「家庭画報」や「an.an」の華やかさにまぎれてしまいました。
こちらで抜粋を読むことができます。

「“後半”という概念にとらわれているのかも。」と、以前も発言していました。
同じ4回転であっても、後半に持ってくることで、疲れとともに余計な緊張をして跳べない。
その力みを逃すにはどうしたらいいか、という意味かと思っていました。
でもそれ以上に、その概念をどうやって打破するかを考えていた。
いっそのこと、南壁から登れないなら北壁からアタックしよう、というような発想の転換だったのか。

それから、4回転を2種類跳ぶために、どうしても必要なサルコウについて。
トロントに移り住んで3年も苦しみ、何度も転びながら取り組んできたサルコウです。
それを、イーグルから跳ぶ事によって、「普通のサルコウ」がシンプルに集約されてきた。
つまりコツがつかめた。だからあっという間にマスターできた。

そして、この抜粋にはない、記事の後半部分です。
「僕の方が、ジャンプの難度は明らかに高いけど、パトリックの方が技の見せ方を知ってる」
「すべてクリーンな演技をする事で、GOEもPCSも稼げるのが彼の素晴らしいところ」
「流れるようなジャンプを跳べるころが僕の長所だから、そこをちゃんとアピールする」
「ジャンプだけに自信を持っていて曲とのユニゾンがなかったから、スケーティングも含めて、全体的にきれいに滑ろうと」



羽生選手にとってパトリック選手は、いつも触発し、道を示してくれる存在なのですね。
自分のよさを伸ばすだけではなくて、パトリック選手のできる事こそを謙虚に学びとり、すべての技を高品質にみがいていった。
羽生選手はユニゾンと言っていますが、このパトリック選手の演技には、ハーモニーがあると思います。
音楽のすべてをなぞるのではない、省略の美学さえも感じます。
こんな素晴らしい演技を、ふたりの選手の明日に期待したいと思います。

そして、すべての選手に、会心の演技を。

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上海の瞳

キャノン・羽生結弦インタビュー

上海のきらめく夜景を背にして、うるんだ黒い瞳でこちらを見上げる羽生選手。

キャノン

「こんにちは、羽生結弦です。
今シーズンは本当に、この地でたくさんいろんなことがありましたけれども、ここまで頑張る事ができました。
本当にありがとうございます。これからも一生懸命がんばりますので、応援よろしくお願いします。ばいばい!」
はい、応援します!

「世界選手権まで2か月ぐらいあるし」「4回転ジャンプをフリーで3つに戻したい」と後半までの通し練習をしすぎてねん挫したとは。
普通の選手なら、どうやって療養まえに戻すかで精いっぱいなのではないでしょうか。

「ブライアンは、何よりも僕の体調を心配してくれていて、『なにか命令しないと』と迫ってくるタイプじゃない」
この、オーサーコーチとの信頼と相互理解は素晴らしいですね。

「棄権という選択肢はありませんでした。それは自分が現役スケーターだからです。そこに何も不思議な感覚がなくて、僕は日本代表として選ばれたからには滑って戦わないと」
だから、国別対抗戦にも出場するのですね、わかりましたとも。

キャノン

「やっぱり(事故があった)上海だというちょっとした思いもあった」
そう、これは今だから言える事ですよね。
試合前には「気にしてないです」って言うのが彼の思いやりだから。

「4回転サルコウは、練習で絶好調だったのに!」
それが本番で決まらなかったことが、彼の悔しさに火をつけ、さらに油を注いだのかも。

「ハビエルは本当に難しい状況だったと思います。」
ハビエルの立場を思いやって、ぬいぐるみで黄変したリンクや、オーサーコーチを独占した事をすまないという。
ハビエルのことを心から信頼し、尊敬しているのがよく伝わってきます。
本当にありがとうハビエル!

キャノン

「また、追いかける事が出来る立場になりました。今度は自分のチームメイトを追う」
「この期間すべてがセカンドキャリアに活きてくる時間」
そして、たくさんの人たちと、「自分の体重の何倍もの負荷に耐え続けて、自分の足首や膝を守ってくれた靴」に感謝。



「自分が出たいと言ってるワガママに家族や周りの人が付き合ってくれたからこそ、好きなスケートを幸せに滑ることができる」と言っていましたね。
誰のせいでもない、決めるのは自分、出たいのはあくまでも自分。
思うようにならない身体のつらさとの葛藤は、好きなスケートを滑りたいから。
すべての責任を引き受ける潔さは、好きなスケートを滑りたいから。
スケートがいちばんのしあわせだから。

「僕のワガママを許してくれる?」
訴えるような瞳で羽生選手に見つめられ、スケートへの愛を熱く語られたら、こころざしの高い姿勢をみせられたら、もう何でも許してしまう。
特別な人だ、ほんとうに特別な存在だ。
行ってらっしゃい、またリンクに立って、輝いて、大好きなスケートを思うままに滑ってきて。
あとでちゃんと病院行くんだよ


すばらしいインタビューに、勇気をいただきました。
キャノンさん、野口さん、ありがとうございました。


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ユヅルはカメレオンになります

「G2」に掲載された野口美惠さんの記事「羽生結弦 完全復活のウィニングロード」。
何度読み返しても気になるのは、ショートの「バラード1番」についての一節です。

「オリンピック王者の座に安住することなく新しいスタイルを追求する、
次のオリンピックを見据えたプロセスの一環です」



なるほど、「パリの散歩道」のけだるいブルース・ロックから、クラシックの王道へと転換してイメージをがらりと変える。
オーサーコーチにはもちろん、次のオリンピックへ向けた戦略構想があるのですね。
シーズンごとに何を見せていくか、プログラムを変化させながら、評価を高めていく。
そしてもちろん、オリンピックでは最強の演技構成で頂点に挑むプラン。

そこまではわかります。その次です。
「この曲で、ユヅルはカメレオンになります。」

ワールドフィギュアスケート

この彼が、カメレオンになる

だめだめ、ならないで…!
いやいや。
これは「たとえ」ですよね、比喩、metaphor、体色変化するカメレオンに。
修辞技法、生物形象、わかります。

バラード1番

「彼が今までに見せたことのない演技なのです。
しっとりとした繊細さ、安定感あふれる包容力、脆いほどの美しさなど、
ユヅルは色を変えながらスケートをするのです」

バラード1番 ファイナル

繊細さ、包容力、脆いほどの美しさ、でもそれだけではない。
静謐さの一方で、激しい情熱や、力強さや、あふれる生命力を感じさせる。
様々に表情を変える音楽を受け止め、全身で放ちながら、高度な技を絶え間なく繰り出していく。
だから、目も眩みそうな、息もつけないほどの、2分50秒なのですね。


でもカメレオンに喩えるのは、やめてね。


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