博雅の龍笛

「SEIMEI」に使われている映画「陰陽師」の曲。
なめらかな笛の音と、鼓動のようなに力強い打楽器とが美しい対比となって、彼の演技を彩ります。



鬼ですら涙したという音曲の名手・源博雅が吹き鳴らす龍笛の音色。
「一行の賦」というタイトルがつけられています。

百鬼夜行の平安京の闇夜に、静かに流れて行く博雅の龍笛は、澄みきって清らかな、博雅の心の音色のようです。
人並み外れた能力を持ち、孤高な、時には凍えそうな晴明を、包むように暖めてくれる博雅の存在を彷彿とさせます。

演技の中では、後半の4回転の後に、心に沁みわたるように流れてきます。
その緩やかなパートは、袖を大きく振って空を見上げ、暗雲を払い光を呼びこんでいるようでもあります。
それは、壮大なプログラムの中のほんの一部でしかないけれど、邪鬼と闘う晴明に、ひとときの安らぎを与えているのかもしれません。

龍笛の音は、空を舞い昇っていく龍の声をあらわしているのだそうです。
それもまた、高く世界にはばたく羽生選手にふさわしいイメージかと思います。

「SEIMEI」の音楽を聴くほどに、至る所に創意があり、独特の感覚があり、本当によく造りこまれていると思います。
ジャンプのタイミングが取りにくいとも言われていますが、むしろ、音の流れ、波を感じて、自然な動作ができるようになるのではないかと思います。

日本の古典音楽を現代的によみがえらせたこの映画音楽を聴きこんで、「和」の精神を世界に伝えようとした羽生選手の熱意と才能とを、あらためて強く感じます。




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安倍晴明が津波を封じた「晴明塚」

磯田道史著「天災から日本史を読みなおす」を読んでいたら、「晴明塚」という、安倍晴明が津波を封じたという伝説の塚について書かれていました。
それは静岡県掛川市の、海岸から少し離れた場所に今も残されています。
赤い石が積み上げられ、何とも不思議な雰囲気です。

晴明塚

晴明塚

浜辺近くにある小さな塚で津波や高潮を封じ、人々を守ることなどできるのだろうか、と思ってしまいます。
ところが、磯田先生が調べてみると、そのあたりの砂丘は海抜14.5メートルあるということです。
この塚は、長く続く海岸線の、最高地点を教えているのかもしれません。

「陰陽師の塚は、長く津波で浸からなかった、点のような場所を示す赤い印ではなかったか」

長い歴史の経験から、人々が見出した安全な場所が、晴明の塚として記録されているのでしょう。

磯田先生のお母様は、2歳の時に津波にあい、奇跡的に生き延びられたという事です。
天災はいつも人間を苦しめ脅かしてきました。
でも、それから何度も立ち上がり、そのたびに知恵と教訓を蓄えてきたはずです。
東日本大震災では、その知恵が充分には生かされなかった事が、本当に残念だと思います。

歴史は、終わってしまった昔の話ではなく、生きる人間の物語であり、これからに続いていくための備えです。
それはいつも動いており、今日もまた新しく始まり、刻まれているのだと思います。

磯田先生はおっしゃっています。
「喪失はつらい。しかし、失うつらさのなかから未来の光を生みださねばと思う」






磯田道史著「天災から日本史を読みなおす」(中公新書)を参考・引用とさせていただきました。
画像はこちらよりお借りいたしました。ありがとうございます。

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安倍晴明伝説

諏訪春雄「安倍晴明伝説」という本を読みました。
他に調べたことも含めて、少し書いてみたいと思います。

「一人の職務に忠実な宮廷公務員がいた。かれは門閥の支配する陰陽寮につとめ、ひたすら研究につとめ、出世はおくれたが、四十歳をすぎるころからしだいに周囲から注目される存在になっていった。しかし、学識と才能はあったが特殊な異常能力をもっていたわけではなかった。政変の危機もなんとかのりきり、天寿をまっとうして陰陽道の世界であたらしい門閥を誕生させ、その祖となることができた。」

この本の冒頭の数行で、晴明の生涯は簡単に説明されてしまっています。
四十歳をすぎるころから、とあるように、美青年の天才陰陽師が活躍するというのは後世の創作です。
平安時代の四十歳といったらすでに老人の部類なので、そこからの出世というのはもう出遅れているということです。
それは宮廷陰陽師として賀茂氏の勢力が強かったからですが、晴明は実力を発揮し天文博士となり、安倍氏が台頭することになります。

宗教や呪術などと、科学、学術、との区別がなく、祭政一致で、宮廷貴族が物忌みや方違えにあけくれる時代。
落雷や洪水などの天災、疫病の流行などへ怖れを解決するために、怨霊を鎮めたり改元したりする時代。
行事の日時や病気平癒を占う宮廷陰陽師は政治的存在であり、実務的な官僚でもありました。
晴明は藤原道長の信任を得、「占事略決」という本を書き、安倍氏の地位を固め、84歳の長寿を全うします。

晴明の超人的な力の伝説は、平安末期から、説話集や物語に繰り返し書かれます。
それは、安倍氏が宮廷陰陽師としての地位を固めていったことと呼応しています。
そして、近畿を中心に、神社など晴明ゆかりの伝説地が登場していきます。

一方、安倍氏が宮廷に力を持つことで、一部の陰陽師たちは民間に散り、各地で活動する事になります。
彼らによって各地に晴明の生誕伝説が伝えられ、晴明の母が狐であったという言い伝えもこちらから生まれます。
民間の陰陽師と聞いてもしやと思い、網野善彦先生の本を探してみました。
中世の無縁・公界に生き諸国を自由に遍歴する、道々の者たち、そのなかに陰陽師もあげられていました。

江戸時代に入ると仮名草子「安倍晴明物語」が書かれ、これが歌舞伎や浄瑠璃のもととなります。
ここにライバル蘆屋道満が悪役として登場します。
こうして、さまざまな説話や伝説を組み合わせた晴明像がつたわっていくこととなります。



さて、「文藝別冊・安倍晴明」には、三島由紀夫の短編「花山院」が載っていました。
三島先生の雅やかな文章に酔っていると、最後の晴明の発言がいかにも「おじいさん」で残念でした。
そこだけ妙にリアリズムな三島先生、なぜですか。
そして澁澤龍彦「三つの髑髏」。こちらも花山院と晴明を扱った耽美な小説で、年齢性別を超えた晴明はソプラノで話します。
三島先生の絢爛とした文で描かれた花山院は清らかで、澁澤先生の硬質な文で描かれた花山院は退廃している。


現代の小説がそうであるように、平安時代からの説話や物語も、史実をそのまま伝えているわけではありません。
モデルのあるフィクションです。でもその方が人の心に訴え、後世に残されていきます。
歴史研究書より歴史小説の方がずっと面白いのと同じです。
そして、そのような物語が書かれ伝説が生まれた背景にはなにがあるのか、を考えるのが歴史研究でもあります。



もちろん羽生選手は「安倍晴明」そのものを演じたいわけではなく、日本、日本人、和の心、その誇りを表現したいのだ、という事。
音楽や振付から晴明を連想する事は多いとしても、その基にあるのは何かを、忘れないでいようと思っています。





諏訪春雄「安倍晴明伝説」
網野善彦「無縁・公界・楽」
河出書房新社「文藝別冊・安倍晴明」
吉川弘文館「国史大辞典」
Wikipediaその他を参考にさせていただきました。
これらの資料を推薦するものではありません。
専門家ではありませんので詳しい内容についてはご容赦ください。

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呪と祝

羽生結弦選手の新プログラム「SEIMEI」の主題はあくまで日本、日本人、和の心を表現しようとする挑戦。
とは言うものの、映画「陰陽師」の音楽を使い、その舞を振付に取り入れている以上、映画や小説は気になるところです。
超人的な能力を持つ美青年の陰陽師、という幻想、神秘には、確かに魅せられます。

野村萬斎さんの安倍晴明が、「呪とは要するに、物や心を縛る」と言っていました。
でも、呪術の呪、呪詛の呪、というのはのろいの事、つまり相手の不幸を願うこと。
そしてフィギュアスケート界には、なんと「カナダの呪い」という恐怖もあります。

これはいけません。
図書館へ行って、枕のように巨大な漢和辞典を借りてはひっくり返し、調べてみました。
すると、「呪」という字はもともと「祝」という字から分かれたものだとわかりました。

呪は必ずしも呪詛のことのみではなく、禁忌全般のことにわたるもので、古くは祝の字を用いた。
呪詛は、のろいという意味だけではなく、あしきものからの守りを願うことも指している。
「呪」という字は「いのる」とも読めるのだそうです。
そして「祝う」は、その人のために邪気を祓うこと。心を清めて祈ることをいう。

「祝」からやがて、「呪」が分かれ、良くない意味がつけられた。
祝は、神に対し祈る行為。
呪は、人に対し欲求する方法。

もとはそういう成り立ちの漢字なのですね。
誰かのために祈ること。そして何かを変えよう、動かそうとする願望の事をさしていた。
あしき「呪」から抜け出し「祝」への回帰を願いながら、羽生選手の「SEIMEI」の完成を待つことにいたします。






諸橋轍次先生、白川静先生の著作を参考にさせていただきました。
専門家ではありませんので詳しい内容についてはご容赦ください。

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天翔ける 「 SEIMEI」

仙台放送で放映された羽生選手のDOIの「SEIMEI」。
ノーカットで見る事ができました。
ありがとうございます。



これは、「天翔ける晴明」だと思いました。
実際には、安倍晴明が空を飛んだという伝説は残っていないかと思います。

羽生選手の「SEIMEI」は、深く大地を祓い鎮める。
やがて空へと舞い上がり、風を切り、天を高く飛翔していく。
はるかな高みから彼は祈り、護りにつく。
そのいさぎよさ、揺るぎなさ、そして気高さ。


そんな印象を持ちました。





動画を差し替えました

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