もういちど「SEIMEI」

自分では落ち着いているつもりだったけれど、でも、
タイムスケジュールのチェックに集中できていません。
こういう時は、もういちど「SEIMEI」を観てみましょう。

ファイナルの会場では、音量を最大に上げてほしいと彼が頼んだと聞きました。
こうしてみると、静寂から始まると思っていた龍笛の音色も、
実は強い息の音であり、気魄がこもっているのが感じられます。



最初に繰り出される三つのジャンプと、その間の流れの美しさ。
清流が速度を増して谷を降りていくのに、苔むした岩にあたって砕けるように、
音楽の強音を伝えて、ターンを繰り返しながら打楽器を演奏するような演技。

曲の転換とともに、動と静を演じ分ける。
瞬間瞬間のしなやかさに、練り絹のような艶が宿っている。

背中から腰、膝の向き、足首の動きの自由、
すべてがなめらかに連動して伝わっていくすがすがしさ。
風が舞うようにジャンプは繰り返され、音楽とともに高揚していく。

柔と剛、旋回と直線、収縮と伸展、それらの明確な対比。
後ろ側から交差される左脚の残像がねじれて螺旋を描き、
最後の一瞬にほどかれて解放され、彼はきっぱりとした十字となる。
天を仰ぎ、地にある人として、まっすぐにそれと対峙する。



息するのも忘れてしまいそうな、奇跡のような演技です。
世界選手権の舞台を、ただ、待ちたいと思います。



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ゾーンに入る

スケートカナダのFSの直前、パトリック・チャン選手はとても動揺していまいした。
けれども、演技を始めると集中し、素晴らしいショパンをみせてくれました。
その体験を彼はこう話しています。
「氷に出て行く瞬間、まるでトンネルの中に入っていくように、周りの事はまったく気にならなくなった」
「自分だけの世界に浸った。心から平和な気持ちになれた」

そして、四大陸選手権ではそれ以上に、完璧で感動的な、
彼の最高のパフォーマンスをみせてくれました。
まさに「ゾーンに入っていた」のだと思います。

羽生選手のファイナルでの演技も、オーサーコーチやトレーシーさんが「ゾーンに入っていた」と言っています。

この「ゾーンに入る」とは、「フロー状態」とも言われています。
それを説明しているのがこちらの、心理学者・チクセントミハイのスピーチです。
英語ですが日本語の字幕もあります。

チクセントミハイ:フローについて

ここにはフィギュアスケート選手の体験が紹介されています。
何も考えることなく演技し、音楽を聞いているのかどうかわからないほど音楽と一体となる。
それは、羽生選手が目指してきた事、
特に「バラード第一番」を演じながら到達してきた事でもあります。

羽生選手はサルコウが成功するようになったことについて話しています。
「跳ばなきゃ跳ばなきゃと思ってやっている感じが、オータムクラシック、
NHK杯、グランプリファイナルとだんだん薄れてきているんです。
これは物理的なものではなく、もう精神的なものです」

何度もランスルーを繰り返し、呼吸数さえ一定になるところまで技術を高めることで、
彼はフローを発見したのかもしれません。

最高のパフォーマンスが行われている時、それ自体が喜びとなって時間を忘れてしまいます。
自分の能力と課題の難易度が釣り合い、「できる」と確信する時、リラックスした幸福な状態で集中することができます。
はっきりとした目標に向かって、心は落ち着き、不安はなく、限界は遠くなって行きます。

それが自分にとって簡単すぎても、難しすぎても、没頭しきる事はできません。
だからフローは長い努力の向こうにあります。
アスリートは常に今の自分を向上させようとします。
うまく行かない事を訓練し、努力しているときはみっともないけれど、
それが成長の階段を上っているという事です。
何度も何度も転びながら、決してあきらめることなく、
高度な技術を自分のものとしてきた羽生選手のように。

長い鍛錬の先に、努力が辛くなく、喜びとなる時が訪れる。
それは、特別な人だけに起こる事ではなく、
だれもが感じることのできる幸福の体験です。
自分が本当に望むことを行っている時には、
フローへの扉がそこに存在しています。




M.チクセントミハイ著「フロー体験入門~楽しみと創造の心理学」
その他を参考にさせていただきました。

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自分自身の「バラード第一番」~2

「バラード第一番」を弾くツィマーマンさんの映像を見て、
「どんな感情でどんな体勢で弾いているのか」までを研究したとは、本当に驚きでした。

その演奏は端正で、抑制が効いているように思います。
もっと奔放に、激情がなだれうつように、緩急を揺らすピアニストもいますね。
ツィマーマンさんを選んだのはバトルさんなのだろうと思いますけれど、
ピアニストの演奏に向き合った上で、自分のスケートがそれを超えるまで、
のぼりつめようとしていたのでしょうか。

「今は、一つひとつの音を踏みしめているような感覚です」

そして、プログラム構成を組み替えたことについて。
サルコウのあとで、
「速い音のところで以前はスピンが2つだったけれど、
そこをトゥループにしたことによって、また違ったダイナミックさが出て、
その速い音でゆっくりとした動きがだせるようになりました」

…この言葉が聞きたかった、と思いました。
サルコウからトゥループに向かう間、曲は次第に速度を増し強くなっていくのに、
リンクを周回しそれから斜めに横切って、ステップを踏み、ジャンプに入ります。
これを、「速い音でゆっくりとした動きを出す」と捉えて、
複雑なトランジションとしてだけではなく、
音楽を大きな連なりとして、きこえない音が流れている事までを、
ダイナミックに表現しようとしたのかもしれない。

その結果、4T+3Tは、音楽のフレーズの山をふたつとも、
そのままなぞって、音を目で見せてくれるようなジャンプとなり、
キャメルスピンに入るのに、ピアノの強打をそのトウで鳴らし、
ドーナツの円形を描いて回転しながら、
繊細なピアニシモが流れ出るのが目に見えるようになったのかもしれない。


そんな事を想像しました。



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自分自身の「バラード第一番」

「Ice Jewels」vol.2に、2シーズン目の「バラード第一番」を、
ジェフリー・バトルさんと一緒にブラッシュアップした頃のことが話されています。

「自分には何ができるか、何が一番曲と合うのかを考えていた」

イーグル+4S+イーグルは、バトルさんからも絶対無理だと言われた。
でも、イーグルからのアクセルは曲に合っていたので、
ジャンプの難易度を上げながらも、その印象を大切にしたかった。

「ジェフなりの曲の解釈に僕が飲み込まれているところもあり、
昨季は僕がジェフのレベルに追い付いていなかった」
「1年間、曲を聞き込んで、少しはジェフに追いつけるようになったかな」
「アレンジに自分の気持ちや感情が乗せられるようになった」

それは、ジャンプが美しく跳べ、途切れなく破綻がないからこそ完成する作品。
ジャンプも曲の表現となり、10点満点の評価もそこから導き出されてくる。
萬斎さんからも学んだように、その場の雰囲気、その時の感情に合わせて振付を変え、
型の上に何かをプラスし、自分らしさを発見し表現していく。

自分が音を奏でているような演技だけではなくて、
自分はピアニストではないのだから、それとは別な次元で、音と一体となる。


バトルさんからも離れて、演奏者からも離れて、
自分自身が直接、音そのものになる。

そんな事を考えていたのでしょうか。




…続きます

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「アイスジュエルズ」vol.2

雑誌「Ice Jewels」vol.2を読んでみました。



今、あまりにもたくさんの雑誌が発売されるので、
すべてチェックすることなどとてもできません。
でも、この本は、紙質も色彩もきれいだし、
選手の写真も素敵な瞬間が選んであって、
選手を大切にしようという姿勢が現れていて、
ページを開くたびに幸せな気持ちになれます。
2冊目もまた、読み応えのある一冊でした。

それぞれの大会についての記録が詳しくて、データも載せられています。
ルールについての吉岡伸彦さんの解説はマニアックなほどです。
どうしたら0点がついてしまうのか、の説明を読んでいると、
競技としてのフィギュアスケートが、こんなに緻密なルールに乗っ取ったスポーツなのだと、
あらためて、選手のみなさんに頭が下がります。

羽生選手が「バラード第一番」について話しているのも、とても興味深く読みました。
あのピアノ演奏者を「ツィマーマンさん」と言っているのを初めて聞きました。
「ツィマーマンさんって意外に若いんですよ」とか(^^)
このお話についてはまた、ゆっくりと書いてみたいと思います。

それから、私にとっては胸に迫るというか、読んでよかった…と思う記事もありました。
それについても、またいつか。



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