カナダ杯からの出発

「Ice Jewels」vol.2に載っている、カナダ杯あとのインタビュー。
あの時、チャン選手の前に2位と敗れた事が、今シーズンの彼の出発点であったことは、言うまでもありません。
いったいどうやってあの短期間に、演技を変え難易度をアップしていったのか。
その、血のにじむような練習方法の秘密は、「語り亭」で「3Kmのダッシュを4~5本もやるほどの厳しいランスルー」ではないか、と推理されていました。
カナダ杯直後の彼は、もうその練習を想定していて、自分自身で考え始めています。

「とりあえず、肺活量をつける。
スピンやジャンプを抜いて4分半を滑りきり、スケーティングを全力で通す。
その上でスピンを入れ、ジャンプを入れて、徐々に増やしてフルにしていく。」

それが最終的には、ランスルーを何本も、呼吸まで一定になるほど繰り返す、ハードな練習につながっていったのかもしれません。

「パトリックに対抗するのにトランジションのクオリティで対抗したら勝てない」
「それならばそこで勝負するのではなく、ジャンプを跳ぶ前にステップして」
「えっ、そこから跳ぶ?みたいな構成をすれば勝機が出てくる」

そうして、カウンターからの3Aはもちろん、イーグルから4Sを跳ぶ事を考えて、
EXの練習の時にはもう始動していたのですね。

そのパッションは、チャン選手への敗北の苦さから来るとしても、
負けて、ただ悔しくて感情的に燃えるのではなくて、謙虚に相手を分析し、
では自分はどうするのか。
自分自身で戦略を練って、誰もやらない事を発想していく力は、本当に素晴らしいと思います。

チャン選手は「ユヅルのやらない事をやる」と言いましたが、
羽生選手も、「パトリックのやらない事をやる」と思っていたのかもしれません。


そして、吉岡伸彦先生のルール解説で、
4S、4T+3T、3Aの構成では、失敗による重複で0点になることはない。
…これも、とても大きいと思います。


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三つの「SEIMEI」

カナダ杯のあとで、チャン選手の完璧な「痺れるような演技」について聞かれた羽生選手は、こう答えています。
「きれいにまとめればいいんじゃないですか」
「そのきれいにまとめるっていう事がどれだけ難しいか、僕たちスケーターにしかわからないです」

カナダ杯 インタ1

-「SEIMEI」はそこまで持って行く?

「持って行きます、絶対。そうじゃないとこれをやる意味がないです」
「これぞ日本、っていうものを出しきれていないんですよ、やっぱり。
自分のなかでジャンプでいっぱいいっぱいだから」
「それじゃあオリンピックチャンピオンじゃない。
そこは絶対やってやるって今思ってます」

その宣言の通り、その後の二つの試合ではノーミスの完璧な演技をみせてくれました。
そして三回の「SEIMEI」には、別々の感情をプログラムに込めた、と言っています。

カナダ杯では
「怒り使いました。かなり、間違いなく。」
「プログラムってその時のその演者の感情が入っていいと思うんですよ」
「スケートカナダの時は、怒っているというか、思いっきり悪霊成敗してやる、みたいなSEIMEIだったし」

「NHK杯の時は、みなさんの力を感じて、それでやったSEIMEIだと思うし」

全日本 インタ2

「ファイナルは、『自分対自然』の中で自分をちゃんと持って、ひとつひとつこなせて行けたのかな、っていう演技だったと思います」

これを聞いて、羽生選手は萬斎さんとの対談をずっと思っていたのかもしれない、と思いました。

確かに、カナダ杯では、SPでの自分に怒っていました。
でも、その怒りにただ駆られたのではなく、「怒りを使った」と分析して、客観的に冷静に自分を見ています。
自分への怒りの感情を、悪霊と闘う強い晴明の姿に変えたのですね。
感情を「使う」のは、高い技術を駆使するアスリートでありながら、演技に没頭するアーティストでもあるために。

そして、新しい演技構成に挑んだNHK杯では、自分の試みをサポートしてくれた人たち、祈るように見つめていた観客の力を感じていた。
それも、「その場の空気を感じ取り、味方につけ、まとう」という意識だったのかもしれません。

ファイナルでの「自分対自然」というのもそうでした。
日本の山河に清々しい風が渡っていくような、大いなる自然と対話するような、天と地の間に彼が凛々しくそこにいるような。
そんな演技だったと思います。

日本を表現しようと高く志し、完璧な「SEIMEI」を目指した羽生選手の耳に、萬斎さんの言葉がずっと響き、導いてくれたのかもしれません。




画像はこちらの動画からお借りしました。ありがとうございます。

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三つのステップ

アスリートかアーティストか、二つにひとつを選ばなければならないとしたら、彼は迷わずアスリートであることを選びます。
それは揺るぎなく徹底しています。
そのためならば演技をばっさりと断ち切ることもいといません。

二年間、大切に取り組んできた「バラード第一番」を、大胆にも変更しました。
そうして新しい舞台を切り開いていきました。
「SEIMEI」のステップもまた、変更されています。



最初の練習風景。
「はっ」というシェイリーンの声に応えて、大きく力強くステップを踏む羽生選手です。
ここは宿敵との最後の戦闘の場面です。
精神を集中し、見えない武器を手に敵をはらい倒します。
陰陽師が地を鎮める反閇のようなクロスロールの脚の運びに、清明な空気が流れていきます。
力は精神とともに内側に集められ、そこから外へ、静かに放たれていきます。
音楽の求めるままに多彩に動きながらも、そこにそのまま静止しているかのようです。

けれどもオータムクラシックで、このステップはレベル2、GOEは1.50の評価を受けました。
難しいステップ・ターンの組み合わせ、左右両方向に完全に身体を回転させる事。
そのカウントのどこで、不足していると判定されたのか、詳しい事はわかりません。
ただ、この演技はシェイリーンとの練習より、少し動きが重たいように感じます。
この時、ジャンプにもミスがあったことを思うと、やはりコンディションがよくなかったのかもしれません。

日本らしさを追求するだけでは、ルールの要求する水準に応えきれない。
フィギュアスケートの競技プログラムとしての和洋の融合、調和を目指さなくてはならないと、再確認したのではないでしょうか。

次のカナダ杯ではバックのクロスロールを外しました。
冷静に分析しカウントした結果、このままではレベルを取ることが難しいと判断したのでしょう。
そしてレベルは3、GOEは1.0の評価を受け、わずかながらもスコアを上げることができました。

でもそれで胸のどこかが痛まないわけではないと思うのです。
自分で曲を選んで、自分の息を吹き込んで、0.8秒にまで神経をめぐらせた作品です。
日本代表であることの誇りをかけて、心血をそそいできたプログラムです。
その、最も日本的な精髄である部分をあきらめる。
その痛みをもって彼はまた、自らの退路を断ち、アスリートであることに徹するのではないかと思います。

提示されたスコアから彼は読み取り、そして判断をくだします。
それでもまだこのステップは、レベル3の評価を受けてしまう事があります。
レベル4を獲得できたのはNHK杯の時だけです。

もしかしたら「SEIMEI」を観られるのは世界選手権が最後かもしれません。
その時、この印象深いステップは、いったいどんな姿を現してくれるのでしょう。


彼にとって何が真で何が善なのか。
邪であろうが何であろうが、審判から評価される事。
勝負に賭け、勝負の前では鬼である事。
その冷徹に、彼の美をまた発見するのです。


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