きよらかな「SEIMEI」

新しい「SEIMEI」は、羽生選手そのものの姿でした。

ひと言で言えばそれは「きよらか」だということか、と思います。
清純、清新、清冽、清廉である。
迷いなく、曇りなく、まっすぐな、凛とした精神の発露。

ある時は、鼓動を刻む打楽器に、邪と闘う晴明が見えるよう。
ある時は、天から降るやわらかい笛の音に、美しい虹がかかるよう。
ある時は、鞭打つような音の衝撃に、はっと覚醒するよう。
それらの音ひとつひとつを、彼はその身体に乗り移らせ、叩き、奏で、歌う。
音の形を目にみせる魔術のようです。

そして、旋律のない打楽器だけの音の連なりでこそ誘発される、イマジネーションの心地よさ。


最初に決まったサルコウ。
後半に入って、今シーズンの彼にはとても大切なジャンプを失敗してしまいました。
けれどもまったくあきらめる事はありませんでした。
アクセルにつけられなかったコンビネーションを、とっさに、ループにつけて見せました。
そんな精神の強さと、一瞬の判断力、遂行できる実力を兼ね備えた選手は、彼のほかにはありえません。

そしてその旋回のたびに、白く輝く衣装が、彼の腰で独楽のように回転し、その錐のような細さ、鋭さを強調するのです。
それは、彼が、リンクという空間と闘い、飛翔して、着地し、生還するための武器であるかのようでした。

「オペラ座の怪人」にまとわっていた不穏な空気、陰鬱さはどこにもない。
嫉妬も執着も何もない。
夜の闇の音楽は終わったのです。


黒くてぴったりと貼りつく練習着のときには、関節や筋肉、身体のしなやかさがよく見てとれました。
けれども和の衣装はそうではない。
身体の線を隠し、抽象化し、個を消します。
それが「型」であり、生々しさをなくす日本の美である。
その制約のもとにあって、なお、個として輝くことに、彼は挑戦しているのです。



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「KENJIの部屋」第5回 あの日の涙

羽生結弦選手エピソード5(前編)

~一番最近泣いたことは?
「なんですかね。世界選手権で2位になった時はめちゃくちゃ泣きましたけど。それくらいですかね。何泣いたかな?結構泣き虫なんですよ僕。意外と泣き虫で。しょっちゅう泣いてるんですけど、あんまり表に出さないですけど。」

「中国で2位になれて、点数が出た時にびっくりして、こんなにもみんなが応援してくれたから。それこそ基礎点の話じゃないけど、ここまでなんとかしっかり回って点数が取れたんだという」

「皆さんの力を感じて、わーって泣いちゃって。隣にブライアンもいたので、ブライアンの力もそれこそ感じて。この状況でも自分のことを普通に支えてくれたので。いろいろこみ上げて来てわーっと泣いたのを覚えています。あれがたぶん一番の号泣だと思います。世界選手権は悔しくてうぅぅぅ~ってなったけど、中国の時はヒクヒクヒクヒク泣いてました」

~人生最大の大失敗は?
「いや~~、最大の失敗って思ったことないです」
「そういうのはないですね。これだけしなければよかったみたいなことですね?ないですね。常にそういう事ばっかり考えているので。でも後悔はほとんどしないです、基本的に。試合の時とか例えばショーの時に、あ、こうすればもっと跳べたのに、っていう後悔はありますけども」
「これしたから何か人生に影響するかっていうのは考えたことがないです。それが全部運命だと思っているので。かっこいいこと言った(笑)」


あの時泣いたのも見ていたし、何も後悔していないのも、うん、知ってるよ、と思いながら聞いていました。

私には医学の知識もありませんし、あとで怪我の状態を伝え聞いただけで、出場の可否を断言するなどできません。
それでも今、あのフリーは出てはいけなかったと思っています。
あの演技を観て羽生選手に惹かれてしまったのにもかかわらず。

今、ネットやテレビでうっかりとあの時の映像を目にすると、正視する事ができません。
その恐ろしさとともに、その死の匂いとともに、その危険な美しさにまた魅入られてしまいそうで。
「世に出してはならないもの」と能登さんが怖れられた、その通りだったと思います。

友人が言った「自己犠牲」という言葉を思い出します。
それは、観念としては美しいかもしれないけれど、決して崇めてはならないものだと思っています。

狂気にも似た、とも称される演技を見せる彼。
空中に身体を投げ出すようなジャンプを跳ぶ彼。

あの時彼は、スケートの神と悪魔との間で取引をし、賭けに出た。
自分の身体を捧げる賭け。
スケートの神の前で殉教者になる事を選んだ。
審判は下り、彼は生きて帰ってきた。
「それが全部運命だと思っている」



最近、世阿弥の事を少し勉強していて、「離見の見」という言葉を知りました。
自分が観客からどう見えるかという意識、さらにそれを俯瞰して見る。
目を前のほうに見すえつつも、心を後ろのほうに置く。
あの時、基礎点を積み重ねる事に一心不乱だった彼は、観客からどう見えるかを忘れていた。
けれどもキス&クライに生還した時、観客が自分のために祈っていてくれたことを知った。

だから子供のように、あんなに泣きじゃくったのかな、と思ったりしています。




※ 続きます

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花になり花を咲かせるスピン ※追記しました

先日の「KENJIの部屋」第4回 「花になれ」で、ラストのスピンについて、宮本先生の教えから学んだという羽生選手の発言。もう一度引用してみます。

~EX「花になれ」振り付け秘話
「だけど、それ、縮まないんだよ、花咲いてないじゃんて、つぼみじゃんそれ、っていう事を(賢二先生に)言ってもらって」
「結局最後たぶんバックスクラッチで終わろうとしてたんですよね。でも最後トンプソン(?)で、手開いて。ってすごい言われてて」
「例えばパンケーキとか、(足を膝に乗せる動作)これもすごくちっちゃくなっちゃう。もっと大きくなって、って言われたのを非常に残っていて、それからですね。その曲に合わせて、自分の得意な動きをするのじゃなくて、曲に合わせて振付をしようって」

この時「トンプソンって何だろう?聞き間違えたのかな」と思っていたのですが、こちらのメイさまのブログで、その謎を解くことができました。
自分の得意な技を使うのではなくて、曲を生かし花になるようにと選んだのがトンプソン。

24時間TV「花になれ」 5

バックスクラッチは、フリーレッグを軸足の前側で、トンプソンは後ろ側で交差させます。
だからふわっと花が開くように、外に向かって広がっていくように見えるということでしょうか。

そしてパンケーキスピン。

全日本EX“花になれ” 3

回転しながら大きく動いて、花が開くのを表現していたのですね。


いろんなことが記憶に残っていないのであるらしい宮本先生は、「花になれ」というプログラムについてだけ指導し、振付けたつもりだったのかもしれません。
でも、誰かが何気なく発した一言を天の啓示のように受け止めて、理想のスケートの扉を開く鍵を手に入れてしまう羽生選手です。
得意な技を見せるために滑るのではなくて、曲を表現するために技を選ぶのだという発想。
彼の直感力、豊かな想像力、その柔軟さには、いつも驚かされてしまうのです。


※追記です
「花になれ」のバックスクラッチスピンを見つけました。
名古屋スケートフェステイバルでの画像です。

名古屋 花になれ







メイさまに感謝して紹介させていただきました。
ありがとうございました。

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壁ドンは、好きになれない

羽生選手と宮本賢二さんが対談した「KENJIの部屋」第一回を無事に見る事ができました。
その感想は別に書きますけれど、羽生選手の「壁ドン」の話題が出ていたので、少し書いてみたいと思います。

羽生選手の「壁ドン」に、反響がすごかったそうですけれども。
私は「壁ドン」は、好きになれません。
はっきり言って、とても嫌です。
もっとも、羽生選手の「壁ドン」は迫力がありすぎ怖すぎて、恋愛の一場面には見えなかったかもしれません。

暴力的に相手に迫って束縛し服従を強要する感じ。
支配と被支配の構図が見え隠れする。

と、あの時は言えなかったけれど、あの嫌な感じを言葉にすればそういう事です。
羽生選手は、スケートからすべて学んでいるそうなので、周囲に方はどうか、よろしくお願いいたします。

ファントムがどんなにクリスティーヌを束縛しても、たとえそこに愛があったとしても、彼女を幸せにする事はできないのです。



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「あさイチ」part3・ファスナーの美学 再び

あさいち 11

「試合用は照明が当たらないこと前提で」
「白のデザインだと上から見たときとかリンクと同化しちゃうので、その同化をしないためにどういう工夫をしていくか」
「基本僕は下は黒ですね」

あさいち 8

このように身体がやわらかいので、後ろファスナーの衣装は自分で

あさいち 9

「こう行って、あとは衣装引っ張って、こうやって、グッ!て」

国別対抗戦 2015


あのファントムのファスナーの美学の再現を、何とも爽快にやって見せてくれました。
こういうの当たり前なんですよと言わんばかりに、潔く体育会系をつらぬく羽生選手の後ろ姿。
バックルームのカメラは邪魔だけれど、そんなものに集中をそがれたりしない。
目の前の試合の事、試合に勝つこと、それだけしか考えていない。
だから、グッと、ファスナーは容赦なく持ち上げられ、戦闘態勢を完成させるだけ。


彼の演技をいろどる華麗な衣装。
でもその緻密に計算された美しさは、もちろん、彼のスケートを引き立てるためこそにあるものです。

そしてもしかしたら、彼自身の美しく整った姿かたちさえも、そのためにだけ与えられているのかもしれません。
だから彼は時として、スケートのために自分を酷使し、痛めてしまうのかも、しれません。






画像はこちらの動画からお借りしました。ありがとうございます。

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